読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

2018年読んでよかった本10冊

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自分のNoteからの転載ですが、2018年中に読んだ本の中で心に残った10冊の本を紹介できればと思っていますので、どうかお付き合いください。

 

 

 

多和田葉子「地球にちりばめられて」

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

 

最初に紹介するのは多和田葉子さんの「地球にちりばめられて」です。「献灯使」(”The Emissary”)で全米図書賞翻訳文学部門を受賞されたことが記憶に新しい多和田さんは、ドイツを拠点に世界中で活躍されている作家です。 ドイツでの生活体験を綴ったエッセイ「言葉と歩く日記」がたまらなく好きで、「地球にちりばめられて」においても、言葉が重要なキーワードの一つとなります。

 

留学中に故郷の島国が消滅し帰る場所を失った留学生Hirukoは、大陸を移ろいながら形成されていった、ノルウェー語とデンマーク語とフィンランド語を母体とした永遠に完成しない液体言語「パンスカ」をテレビで披露します。 テレビ越しに見たHirukoに興味を持ったコペンハーゲン大学言語学を専攻している学生ナヌークとともに、彼女の失われた母国語者を探すべく旅に出ます。

 

彼らは、道中同志を交えながら、言語とは何か、アイデンティティとは何かを膨らませていきます。僕たちは、無意識に、人種や宗教、そして言語で他者をラベリングして壁を作ってしまう生き物ですが、言語は、言葉は、元をたどればただの音に過ぎません。完璧ではなくても、言語を学び、言葉を音として発することで、他者と通じ、そして新たな自我が生まれます。地球に散りばめられた僕たちは◯◯人である前に地球人である、ということを気づかせてくれる、そんな一冊です。

 

 

ジョー・ネスボ「真夜中の太陽」  

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

 

 

お次は、北欧ミステリ作家であるジョー・ネスボの「真夜中の太陽」を。2018年のミステリランキングには話題になりませんでしたが、個人的にとても好きな作品です。窃盗の疑いで組織に襲われている主人公が、オスロから遠く離れた北の地を舞台に、組織の手からうまく逃れる方法を探すというのが大枠の一風変わったミステリ。

 

信念と暴力、そして執着という普遍的なテーマをの中で、北の大地で揺れ動く主人公の心はなんとも叙情的であり、村上春樹さんを想起させました。特に物語の方向性は違えど、同じテーマを扱う「ねじまき鳥クロニクル」を。

 

各巻完結で、この本から読んでも十分物語は楽しめますが、前作「その雪と血を」との対比を味わうのもまた一興です。「ねじまき」と比べてかなり文量も少なく非常に読みやすいですよ。

 

⒊ 深緑野分「ベルリンは晴れているか」 

ベルリンは晴れているか

ベルリンは晴れているか

 

 ヨーロッパが舞台の小説が続きます。深緑野分さんは、いい意味で、日本人作家らしくない小説家です。「オーブランの少女」や「戦場のコックたち」の筆致は、完全に海外小説の翻訳のそれで、「ベルリンは晴れているか」もその心地よい感覚を味わせてくれます。

 

舞台は、第二次世界大戦終戦後、ベルリン宣言により諸外国の統治下に置かれたドイツ、ベルリン。アメリカ軍の兵員食堂で働くアーリア人の少女アウグステが、恩師クリストフの中毒死の真相を求めながら、恩師の甥に伝える旅に出ることとなります。迫害や対立、ホロコーストの跡を辿りながら、辿りついた真相は?と、ミステリとしては「奇妙な味」的な少しもやもやしたところも残りましたが、幸せとは何かを考えさせられる、ミステリを超える物語と出会えました。

 

林哲夫/能邨陽子「本の虫の本」  

本の虫の本

本の虫の本

 

 

 本好きというのはついついこういう本に惹かれてしまう生き物なのです。本好きが本好きのために書いた、「本あるある」を一冊の本にまとめたのがこの「本の虫の本」です。

 

例えば「全部読んだんですか?」では、「本をたくさん持っている人に決してしてはいけない質問です。」という一文から物語が始まります。 本好きなら共感できるはずです、あの永遠に底が見えない積ん読の山を。僕も1冊読んだら2冊買っていい、という信念のもと山積みの積読本が部屋を狭くしてしまっています。「全部読みました」と答えられる日は永遠にこないのです。

 

⒌ 近藤哲朗「ビジネスモデル2.0図鑑」

ビジネスモデル2.0図鑑 (中経出版)

ビジネスモデル2.0図鑑 (中経出版)

 

  視覚的に新しいビジネスモデルを学ぶことのできる「ビジネスモデル2.0図鑑」は、ビジネス視点でもデザイン視点としても楽しんで読める、今年読んでよかった本の一つでした。ビジネスを考えるときは「ヒト・モノ・カネ」の動きを中心に理解するのが良いのですが、それが1ページに一目瞭然に示されている、まさに集合知のような本でした。

 

ビジネスに興味がない人でも「へぇ、こんな会社があるのか」と知れるだけでも得した気持ちになれるはずです。

 

⒍ 初谷むい「花は泡、そこにいたって会いたいよ」

 書肆侃侃房から出版された新進気鋭の大学生の等身大を読んだ短歌集です。僕は特段学術として文学を学んだ経験はない素人なので、短歌や詩をどう読んだらよいかはわかりません。ただ流れに身を任せて、読んだ一文が好きかどうか、それに尽きるような気がしています。

どんな歌集にも「わかる!」と思うものと「わからない...」と思うものの両方が存在してしまいます。小説と比べても一つの本にこんなに沢山の物語が詰まっているのですから、共感できないものがあっても仕方ないように思えます。その中でもこの歌集は「わかって」しまうものが多く、自由なリズムで飛び跳ねながら溢れてくる文字を追うのが、つい、楽しくなってしまうのです。

 

篠原健太「彼方のアストラ」

  最終巻の刊行が2018年だったので、「彼方のアストラ」も2018年に刊行された本として紹介させていただきます。2063年惑星マクパにキャンプに向かった9人を襲った謎の球体、だだ広い宇宙空間に飛ばされた彼らはもとの惑星に戻れるのか、というのが大まかなストーリーです。

 

SKET DANCE」が終わった時はかなりショックでしたが、そのあとの新連載「彼方のアストラ」はそれ以上に衝撃でした。科学・歴史・SF・ミステリ・ギャグ、全てのジャンルを網羅したかのようなストーリー、魅力あるキャラクター、無駄がなく細やかな人物設計、突飛がないようで論理性のあるオデッセイのようなSF考証、回収不能のようで隙のないふんだんに散りばめられたミステリ、そしてSKET DANCEから変わらないギャグ、何もかも最高なんです。5巻というちょうどいい長さに纏められているので1日かからずに読み終われます。是非ご一読を。

 

⒏ 原尞「それまでの明日」

それまでの明日 (早川書房)

それまでの明日 (早川書房)

 

 個人的には今年最高のミステリだった、原尞さんの「それまでの明日」はシリーズ14年ぶりの刊行であったこともあって、発売前から期待に胸を膨らませていました。シリーズ第1作の「そして夜は甦る」が1988年でしたので、30年で長編5作とかなり寡作な作家ではありますが、その分最高密度のストーリーテラーであることは間違いありません。

 

物語の主人公である渡辺探偵事務所の沢崎あてに来た身辺調査の依頼は思わぬ方向に進んでいきます。ことの真相は、ぜひ作品をご覧いただければと思うのですが、幾重にも積み重ねられた重厚な物語は、何度も読み返したくなります。この物語を読むにあたって、事前に前4作品を読み返したのちに臨んだのですが、そのハードボイルドな言動は、色褪せることなくそこに存在し続けているように感じられました。

 

 

⒐ 田中修治「破天荒フェニックス」  

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

 

 昨年はナイキの歴史を綴った「SHOE DOG」が話題になりましたが、今年はオンデーズの再生を綴った「破天荒フェニックス」が良い意味でビジネス本市場を席巻したように思われます。もちろんナイキと比べると規模は小さいですが、この本は単なる企業再生の成功体験を綴った物語ではなく、あくまでも再生「まで」を綴った物語なのです。

 

そのため、買収直後の社員からの敵対や困惑、一体感の醸成の最中での内乱や裏切り、金融機関の貸し渋りなど、最初から最後のほうまで試行錯誤を繰り返し、成功し始めたところで物語は終わるという、読者としてはかなり辛い読書体験となります。しかしそれがまた面白い。どこまでがノンフィクションなのかはわかりませんが、苦労して苦労してようやく掴み取った成功に対しては、感情移入も一入ですね。

 

本谷有希子「静かに、ねぇ、静かに」

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに

 

 最後に本谷有希子さんの最新作をご紹介。好きな作家はと聞かれると「純文学は本谷有希子さん、ミステリは米澤穂信さん」と答えます。書くジャンルは違えど、普通の人なんだけど一癖あるキャラクター、シュールでシニカルな文調、ハッピーエンドでは終わらせない読後のえぐみがこのお二人は最高なのです。

 

「静かに、ねぇ、静かに」はSNSやネットショッピングなど、最近の社会的インフラにどっぷり使っていく中年の奇妙さを描いた連作短編集で、映し鏡のような気持ち悪さが流れ込んできます。いまやネット依存は若者だけの話ではなく、世界全体がある種の感覚に麻痺し始めているようで、そんなSNSが人間の行動を定める彼らを客観的に眺めるブラックユーモアな、Kafkaesqueな群像劇は本谷さんにしか描けませんね。

 

 

 

ミステリが多めですが、純文学や短歌、ビジネス書や漫画までいろんなジャンルから10作品を紹介させていただきました。来年もまた素敵な読書体験になることを自らに期待して終わりにします。ご拝読ありがとうございました。

 


【2018年版】4誌ミステリランキングを総括してみました。

早いもので、2018年もあと半月で終わりですね。

平成最後の年末なんていうととても貴重なもののように感じますが、今年も例年通り、ミステリ本の読み納めに向けて、読み耽っているところです。

 

さて、この時期にはミステリ好きにはたまらないイベントがあります。そうです。各種ミステリ・ランキングの発表ですね。総合本では「ダ・ヴィンチ」や「本の雑誌」のランキングなどありますが、ミステリといえば、ハヤカワミステリマガジンの「ミステリが読みたい!」、宝島社の「このミステリーがすごい!」、原書房の「本格ミステリ

ベスト10」、そして文藝春秋の「週刊文春ミステリベスト10」の4誌が有名です。

 

ミステリマガジン 2019年 01 月号 [雑誌]
 
このミステリーがすごい! 2019年版

このミステリーがすごい! 2019年版

 
2019本格ミステリ・ベスト10

2019本格ミステリ・ベスト10

 
週刊文春 2018年 12/13 号 [雑誌]

週刊文春 2018年 12/13 号 [雑誌]

 

 

 

 

 

ということで、今年も4誌ミステリランキングを総括してみました。

 

【国内編】ミステリランキング

 

まずは国内編。

 

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4誌掲載で青色、3誌掲載で赤色、2誌掲載で緑色、単独掲載で黒色表記としています。

 

各誌とも、回答対象者にランキングの形でアンケートを行い、集計した点数が高い順にランキングが決定していますが、ハヤカワミステリマガジンの「ミステリが読みたい」だけは発行日が早い関係で対象期間が2017年10月1日〜2018年9月30日に発行された書籍が対象になっています。(残りの3誌は2017年11月1日〜2018年10月30日発行の書籍が対象)

そのため、「ミステリが読みたい!」に今回ランキングしている書籍のうち、「屍人荘の殺人」および「ミステリークロック」(海外版では「黒い睡蓮」)が残り3誌では昨年のランキングの対象となっています。

 

今年のミステリは一言で総括すれば「ストーリーミステリの当たり年」だったように感じます。必ずしもストーリーミステリと本格ミステリは相反するものであるとは言えませんが、本格ミステリと他誌の被らなさから、その傾向が読み取れます。

 

その数あるストーリーミステリの中でも、今年の目玉となったのが14年ぶりに刊行された原尞さんの「それまでの明日」ですね。「私が殺した少女」で直木賞を受賞したのが1989年、シリーズ第1作の「そして夜は甦る」から「それまでの明日」の5作目までに30年掛けたというのですから驚きです。しかしその分、充分に濃縮されたミステリで、読後感にどっぷり浸かれる(疲れる)のは、この方の作品ならではではないでしょうか。 

それまでの明日

それまでの明日

 

 

若竹七海さんの「錆びた滑車」も、物語が進むにつれて事件の全貌が二転も三転もする、極上のストーリーミステリです。読み終わった時に、この小説は完全に原さんの小説だと思ってしまったぐらいに、精巧に作り上げられています。物語は社会問題が描かれたり、木枯らしが吹くような展開であったりと読み進めるほど辛くなりますが、ハードボイルドとは違った体の節々の痛みや息切れに苦しむ中年女性探偵の不遇さが物語をコミカルにしてくれているような、笑っちゃいけないんだけど、クスッと失笑してしまうところがこの本の魅力なのだと思います。

錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

 

 

深緑野分さんの「ベルリンは晴れているか」は、第二次世界大戦終戦後のドイツを舞台にした歴史ミステリであり、歴史的背景や情景描写がもの凄い。日本にもこんな小説を書ける人がいるのかと、翻訳ミステリさながらの書き筋と本の厚みに、度胆を抜かされること間違いありません。まさに今年の(特に年末年始にかけて)一気に読むべき作品です!

余談ですが、「夜と霧」、「アウシュヴィッツの図書係」「HHhH」と並べて本棚に飾っています。

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

 

東野圭吾さんの「沈黙のパレード」も、ガリレオシリーズ最新作として、本好きを大いに沸かせました。週間文春ミステリーベスト10で1位というのは出版元というのもあって作為的にも感じますが、とても面白かったです。「探偵ガリレオ」から読み直してしまいました。ただ、途中でミステリの謎が解けてしまったというところと、やはりあまりにも「容疑者Xの献身」と「聖女の救済」が凄すぎたところが、僕の中で目立ってしまいました。

沈黙のパレード

沈黙のパレード

 

 

 そして、僕はホラーが苦手なので、せっかくの4誌掲載である三津田さんの「碆霊の如き祀るもの」は未読です。芦沢さんの「火のないところに煙は」は読みましたが、読後にすぐに記憶から抹消してしまいました、すみません。笑 

 

葉真中さんの「凍てつく太陽」は室蘭の製鉄所が舞台ということで、読みたいのですが現在未読です。また、真藤さんの「宝島」はとても面白かったですが、僕の中ではミステリの分類ではない気がしました。

 

こう見ると、本格ミステリ・ベスト10突き抜け感と週刊文春ミステリーベスト10の安定感はすごいですね。

個人的には岡崎琢磨さんの「夏を取り戻す」はもっと評価されるべきかなと思いました。物語が複雑であればあるほど重厚感は増していきますが、小さな範囲で上手にすっきりとまとまった物語もミステリの醍醐味の一つであるように思いました。

 

【海外編】ミステリーランキング 

 

お次は海外編です。

4誌ランキングは以下の形となりました。

 

 

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なんといっても、特筆すべきは「カササギ殺人事件」の4冠ですよね。小説の中で小説が書かれていて、小説と同様の事件が現実でも発生する、という二重の入れ子状態。紛失した小説の結論が、現実の殺人事件の鍵を握る、というワクワクさせる王道の展開。そして、心からミステリ好きな作者が小説の節々に忍ばせた数多のパスティーシュ。とお腹いっぱいになるほど、ミステリのあるあるがこれでもかと詰まっています。作者はどれだけミステリを読み込んだのか、感想ですらもなんと書けば良いものかと、書評者たちを一番悩ませたミステリだと思います。クリスティをもう一度読み込んだあとに読み返せば、新しい発見が見つかる、宝探しのようなミステリで、納得の一位です。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

 

 

「そしてミランダを殺す」は、打って変わって完全なるストーリーミステリ。主要な登場人物は少ないですが、目まぐるしく変わる視点と交差する思惑で、臨場感あふれるミステリとなっていました。登場人物が少ない分、物語の展開はある程度予想できてしまうところもありますが、先入観なく読める、ミステリ好きにも、ミステリ初心者のかたにもオススメしたい一冊でした。

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

 

 

「数字を一つ思い浮かべろ」は、退職した刑事が、数奇なトリックを仕掛けて警察を挑発する犯人を追い詰める、アメリカの王道警察ミステリで、著者の処女作が今回翻訳されました。アメリカミステリに描かれる「内部が対立して部下が無能、トリックの方向性に気づきそうなはずが、ありえなさそうなものから潰していく」警察あるあるのせいで、紙面が厚くなっているところが気になりますが、文章の読みやすさと謎の解き明かし方見たさについつい、ページを読み進めてしまいます。文藝春秋は「乗客ナンバー23の消失」よりも、こちらをもっと力を入れるべきではと思ってしまいました。笑

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

 

 

4誌掲載の、陸さんの「元年春之祭」は昨年、陳さんの「13・87」が話題になったにも関わらず、まだ読んでいません。すみません。しかし、最近台湾・中国ミステリがアツイので、絶対面白い、はずです。すぐ読みます。すいません。笑

 

その他の作品は、話題性の割には、という作品が正直多かったかのように思えました。売り出し方の問題なんでしょうか。昨年のほうが盛り上がっていたような。IQも僕の中ではあんまりヒットしませんでした。

 

そのなかで、目を引いたのが行舟文化の「あやかしの裏通り」ですよね。

そんな出版社聞いたことないぞ、と最初思ったのですが、それもそのはずでした。中国上海の出身で日本で翻訳業・執筆業をされているご夫婦(筆名は「張舟」)がされているインディーズの出版社で、日本での刊行物は「あやかしの裏通り」の一冊のみ(!?)なのです。ミステリに傾倒するお二人が、この本を日本の人々にも読んでほしい、でも大手出版社は出してくれない(早川から今年の10月に16年ぶりの復刊として「第四の扉」が刊行されてますので僕の妄想です)なら、私たちで刊行してしまえばいいじゃないか!という感じでしょうか。

フランス出身の作家であるため主人公がスマートであることに加え、クリスティ好きもあって文章はイギリス流に端的な描写がなされる、まさにいいとこ取り(?)な小説です。ハヤカワも行舟も訳者は平岡敦さんです。とても面白かった。

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

 

 

 

 来年はどんなミステリが読めるのか楽しみです。

最後に、2017年度版のミステリランキングを参考までに貼っておきます。

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新しいKindle Paperwhite、買わない理由がありませんでした。

Amazon電子書籍リーダー、新しいKindle Paperwhiteを買いました!

 

悲しくも、新しいiPad Proと同じ発売日で、界隈ではその話題で持ちきりでしたが、裏でひっそりと盛り上がっているのがこの新しいKindle Paperwhiteです。

 

 

 

予約注文してようやっと届きましたので、うれしくなって早速ブログを書いています。

 

こちらがパッケージ。パッケージからコンパクトです。G-SHOCKや薄い財布とならべても遜色のない小ささ。軽くて本当に中身が入っているのか不安になります。

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横からみるとこんな感じ。iPad Pro顔負けの薄い包装です。

なんだかAmazonが薄い青を使うと違和感を感じてしまうのは僕だけでしょうか。Kindleのイメージカラーなので、当たり前っちゃ当たり前なのですが、Amazonといえばどうしても黒とオレンジの印象になってしまいます。

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早速開封

左が新しいKindle Paperwhiteで右が昔のKindle Paperwhiteです。(以下同じ)

電源オフ時の写真たて感は今回も継続です。

kindleのロゴが見やすく、そして艶やかになりました。

わかりにくいですが、右側はかなり指の脂がついてしまっていますが、新作は表面がかなり滑らかになっていて汚れがつきにくくなっています。

といっても、今回から防水(IPX8)になったので、画面を洗うことも可能です。

IPX8は真水に60分間浸かっても、本体に影響がでない防水性能です。

 

画面サイズに変更はありません。

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横からみるとこんな感じ。

わかりにくいですが、縦幅は数mmぐらい小さくなっています。

ちなみに公式では厚みも変わっているとのことですが、言われてみれば確かに1mmぐらい薄くなっているような気もしないでもありません。笑

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画面と枠の間にあったわずかな段差は、新しいKindle Paperwhiteではなくなりフラットになっています。これも防水対応の一つですね。

一方で、傷つきやすくなるのではという懸念も。公式で画面保護シートも販売していますが、見づらくなると嫌ですし、ケースもせっかくの携帯性を無駄にしてしまうので、しばらくはこのまま使ってみることにします。あまりにも傷がついたりするようであれば保護シートを買うことも検討する必要がありそうです。

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さて、画面の方に行きますが、2台とも最大光量にしてみました。

あれ、古い方が明るく見えない?とおもったのですが、大事なのは明るいことでなく、目に優しいこと。

新しい方が、より文庫本の質感に近いオフホワイトのような色に近づいています。

ライトも1つ増えてより明るさが均等になったそうです。
(前のも不均等に感じたことはありませんでしたが。)

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実際の画面はこんな感じです。

行間は新しい方は普通、古い方が狭いにしているので異なっていますが、表示サイズや行間、余白等は前の機種と設定に変更はありません。

やはり前のものよりも、ブルーやホワイトのライトを軽減して、より目に優しく長時間読めるようにできています。

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暗いところでも同様に、目に優しく光ります。

ちなみに、日光や影などによる画面のうつりこみもありません。

屋外でも夜中でも気軽に使えるところがいいですよね。

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容量も4GBから8GB(もしくは32GB)に増えました。

僕は8GBを購入しました。

とはいっても8GBはシステムファイル等も含めた容量で、実容量は3GBから6.3GBへと増加したようです。

前のやつはデフラグ?していないのですが、2倍近く容量が増えているので、容量に困ることはなさそうです。

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あとは以下の機能が変更されています。

・3G回線から4G回線接続へとアップデート(Wifi + 無料4Gモデルのみ)

・漫画の見開き1ページ画像が横向きで表示されるように

 

 

 

まとめれば、前のモデルよりコンパクトになって、前のモデルより画面が見やすくなって、前のモデルより画面タッチが滑らかになって、前のモデルより容量が増加して、前のモデルより回線が早くなって、前のモデルと違って防水性能がつきました。そして、前のモデルと同じぐらいの価格です。

 

つまり、最高にアップグレードしたということです!電子書籍としての過不足ない機能がさらに使いやすくなっています。これはもはや買わない理由がありません。

 

変にAlexaに対応したり、カラーになったりしなくって良かった・・・。笑

「Alexa、ページめくって!」なんて言ってたら、読書体験も興ざめですから。

 

ちなみに買うなら、容量に合わせて8GBか32GBの広告なしのWifiのみモデルがおすすめです。無料Wifiも増えてきているので、どうしてもっていう方以外はWifiのみで十分かなぁとおもいます。

 

 

ちなみにこの記事は、東京創元社のマスコットくらりのTシャツを着ながら執筆しました。クラウドファンディングのお返しにいただきました。

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おわり。

 

札幌を闊歩する青春群像ミステリを堪能せよ ーー川澄浩平「探偵は教室にいない」

 

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11月に入りますます寒さの増す北海道。峠にも雪が積もり始めていよいよ冬到来でしょうか。

 

今回は鮎川哲也賞受賞の川澄浩平「探偵は教室にいない」を読みました。

 

 

探偵は教室にいない

探偵は教室にいない

 

謎と出会い、わたしたちはすこしだけ大人になる。
第28回鮎川哲也賞受賞作


わたし、海砂真史には、ちょっと変わった幼馴染みがいる。幼稚園の頃から妙に大人びていて頭の切れる子供だった彼とは、別々の小学校に入って以来、長いこと会っていなかった。変わった子だと思っていたけど、中学生になってからは、どういう理由からか学校にもあまり行っていないらしい。しかし、ある日わたしの許に届いた差出人不明のラブレターをめぐって、わたしと彼――鳥飼歩は、九年ぶりに再会を果たす。日々のなかで出会うささやかな謎を通して、少年少女が新たな扉を開く瞬間を切り取った四つの物語。青春ミステリの新たな書き手の登場に、選考委員が満場一致で推した第28回鮎川哲也賞受賞作。
第28回鮎川哲也賞選考経過、選評=加納朋子 北村薫 辻真先

 

 

川澄さんは北海道出身・在住ということもあり、この作品は北海道(というか札幌)を舞台とした連作短編ミステリ感がバチバチ出ています。

 

北海道×連作短編集。

 

あれ、それいつか僕が書きたいと思ってたテーマなんですが!加納朋子さんの「ななつのこ」がとても大好きで、そういう雰囲気を生まれ育った北海道で表現したいと思っていたのに...。と書く気持ちもないのですが、なんとなく悔しくなってしまいました笑

しっかし、「円山公園」とか「宮の森」とか「発寒」とか知っている地名が出てくるだけで、ドキドキするこの気持ちはなんなんでしょうね。笑

 

 

 

 

いわゆる「日常の謎」を解明する中学生の青春ミステリなのですが、ミステリ界でのよくあるジュブナイルものをバランスよく書かれているところがとても良かったです。選評でも書かれていましたが、一歩間違えれば、物足りなくかつありきたりになりかねない、その絶妙なところを、実在する町や路線を使ってうまく昇華させ、かつ王道の読後感を味わせてもらえる、ありがたさを感じました。ミステリなのに殺伐としてない!笑

 

 

 

蛇足ですが、応募時の作品名は「学校に行かない探偵」だったみたいで。こっちの方が個人的には好きなかんじがします。 

 

 

 

ジェリーフィッシュは凍らない」「屍人荘の殺人」とはテイストの異なる今年の鮎川哲也賞ですが、さすがは受賞作、審査員の折り紙つきですので、ぜひご一読を!

 

 

 

これは単なる少年少女の冒険活劇ではない ーー 岡崎琢磨「夏を取り戻す」

 

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夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)

夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)

 

これは、もうすぐ21世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子どもたちの闘いの物語です。――不可能状況から煙のように消え去ってみせる子どもたちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出と思われた子どもたちの連続失踪事件は、次第に地域全体を巻き込む大事件となっていった! いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の傑作長編。ミステリ・フロンティア100冊刊行記念特別書き下ろし、遂に刊行!

 

東京創元社の新進気鋭作家を押し出すレーベル、ミステリ・フロンティアの記念すべき100冊目の作品、というかもう100冊なんですね。早い。ミステリ・フロンティアの作品も結構読んでます。「アヒルと鴨のコインロッカー」「夢見る黄金地球儀」「折れた竜骨」「Y駅発夜行バス」「サーチライトと誘蛾灯」など、面白いミステリ作品がわんさかあります。

 

そのレーベルの100冊目の節目として岡崎さんが指名されたそうで。いやー、相当なプレッシャーだったんじゃないでしょうか、自分だったら断ってしまいそうです。それで上梓されたのが「夏を取り戻す」という作品です。簡潔でいいタイトルですよね、夏を取り戻す。失った夏を取り戻すでも、過ぎ去った夏を取り戻すでもなくて、夏を取り戻す。

 

「夏を取り戻す」はその100冊目にふさわしく、とてもうまくまとまっている作品だと思いました。 作品紹介に書いてるように、児童連続失踪事件の正体は、子供達によるトリックな訳なのですが、このトリックが等身大のトリックであるという点がとてもおもしろいです。現実問題として、こんなトリックを子供達が思いつくわけがない、と思う一方で、もしかしたらいまの子供たちなら思いつくのかもしれないと思わせる絶妙なレベル感のトリック、そしてそのトリックの瓦解の仕方がいかにも子供らしくてクスッとします。

 

そして子供達の思惑とそれぞれの思惑が、物語をより深みのあるものに変えているような気がしました。物語の展開はオーソドックスで予測がつくいっぽう、小手先のトリックだけの物語ではない、芯のある物語が書かれている、そんな作品でした。

 

単なるジュブナイルものでもなく、記者ものでもなく、いうなれば地域ミステリ、というのは、今までありそうでなかったような気がしますね。とっても面白かったです。