読書メモ

札幌在住の26歳。一応公認会計士。ほぼ読書記録ブログと化してます。比較的なんでも読みますが、一番好きなジャンルは推理小説。

【読書記録】2017年10月の読書数は25冊でした。

2017年も残すところあと2ヶ月、早いものです。

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今月のカバー写真。洋菓子よりも和菓子が好きです。

 

肩こりに悩まされ始めると、寒くなったなぁと感じます。

今年も冬の間はスポーツジムに通おうかな。

 

今月の読書数は25冊です。番号入れ忘れました。

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今月はかなり豊作だったので、たくさん読書メモを書くことができました。割合としては推理小説が多いですね。前月より進捗がストップしている浅田次郎さんの「中原の虹」に続き、トルストイの「アンナ・カレーニナ」も2巻の途中でストップしています。面目無い。

そのかわり(?)今月から江戸川乱歩編の「世界短編傑作集」や太田紫織さんの「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」シリーズを読み進めています。

 

今月のオススメは

 

カズオ・イシグロさんの「日の名残り」「わたしを離さないで」

masahirom0504.hatenablog.com

 

米澤穂信さんの「米澤穂信古典部」と北村薫さんの「太宰治の辞書」、市井豊さんの「聴き屋の芸術学部祭」

masahirom0504.hatenablog.com

 

今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」

masahirom0504.hatenablog.com

 

そして藤崎彩織さんの「ふたご」です。

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記事にはしていませんが、樋口有介さんの「ぼくと、ぼくらの夏」もとても良かったです。ぼくが生まれる前の作品ですが、ジュブナイルミステリの中でも、ヒロインの女の子の描写がとりわけ素晴らしいです。

 

新装版 ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)

新装版 ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)

 

 


そして、2017年累計では、277冊の本を読みました。

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読書は別に量ではないですが、一応年間300冊は目標にしていたので残り23冊です。先週似鳥鶏さんの作品をまとめ買いしたので、11月はそれがメインになりそうな気がします。

 

 

 

余談ですが、角川書店から10年ぶりに新字源が改訂されました。

promo.kadokawa.co.jp

 

僕は何を隠そう漢字好きで、漢検準一級を持っています。(漢検一級は落ちました…。)

なので、漢和辞典も僕にとっては読み物の一つです。

今回、特装版はイラストレーターの中村佑介さんがカバーを描かれているということで早速買いました。

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興味のあるかたは、調べてみてください。

 

角川新字源 改訂新版 特装版

角川新字源 改訂新版 特装版

 

 

 

さらに余談ですが、最近つばなさんの「第七女子会彷徨」という漫画にはまっています。

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マサカズ・イシグロ氏の「それでも町は廻っている」が好きな方にはおススメです。タイトルは尾崎翠さんの「第七官界彷徨」のオマージュですね。

 

第七女子会彷徨(1) (RYU COMICS)

第七女子会彷徨(1) (RYU COMICS)

 

 

それでは、今月も読んでいきましょ〜!

ただのセカオワ本ではない、葛藤と前進が克明に描かれた小説。藤崎彩織「ふたご」を読みました。

今回は、藤崎彩織さんの「ふたご」(文藝春秋)です。

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発売日当日に読みたかったので、今回はKindleで買いました。北海道は東京で発売されてから2日後(2日後が土日祝の場合翌週の営業日)でないと読めないことも多いので、新刊でとにかく早めに読みたい!というときは電子書籍が便利ですね。

また、家の中が本でまた埋まり始めてきたので、少しでも在庫圧縮しなければという気持ちがあったというのもまたKindleで買った一つの理由です。2017年10月末現在で、Kindleに約700冊、実書籍で約1,200~1,300冊ぐらいあるんじゃないかと思います。自転車やキャンプ用品なども増やしていきたいので、そろそろもう少し大きい部屋に引っ越して書籍スペースを拡大するのもありかなぁと。なるべくシンプルな暮らしにあこがれていますが、好きなものを減らす必要はないと思っています。

 

藤崎さんは、SEKAI NO OWARIのバンドメンバー、Saoriとしても有名ですよね。僕も「世界の終わり」時代のときから何回か札幌のライブを見に行ったことがありますが、そのときから純粋なファンタジーのような世界観やメッセージ性の強い歌詞が特徴的で、このバンド絶対売れる!、とプロデューサー気取りでおすすめしていました。(笑)そのSaoriさんの処女作が「ふたご」です。

ふたご

ふたご

 

彼は私の人生の破壊者であり想造者だった。
異彩の少年に導かれた少女。その苦悩の先に見つけた確かな光。

執筆に5年の月日を費やした、SEKAI NO OWARI Saoriによる初小説、ついに刊行!

【著者紹介】
藤崎彩織SEKAI NO OWARI
SEKAI NO OWARIでピアノ演奏とライブ演出を担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。雑誌「文學界」でエッセイ「読書間奏文」を連載しており、その文筆活動にも注目が集まっている。

――

ふたごのようだと思っている。
彼は私のことをそんな風に言うけれど、私は全然そんな風には思わない。

確かに、私は人生の大半を彼のそばで過ごしてきた。晴れた日も雨の日も、健やかな日も病める日も、富めるときも貧しきときも、確かに、私は彼のそばにいた。
けれどもその大半は、メチャクチャに振り回された記憶ばかりだ。
(本文より)

 

 まず、読んでみた感想を率直に言えば、すごく良かったです。今年のベスト10に入るぐらい良かったです。芥川賞候補に入ってもいいぐらいです。藤崎さんは、文學界で「読書間奏文」というエッセイを書いていて、初めて読んだ時に「すごく文章の上手い人だ」という印象がとても強く今回の小説もすごく楽しみにしていたのですが、エッセイ以上に美しいな文章が綴られていました。

アーティストとして活躍しているというのもあって、上記の内容紹介にも書かれている本文冒頭を読んでも、すごくリズム感のある文章(調べ)が綴られていて、読んでいて楽しいです。本を朗読しているような、歌を歌っているような、踊りを踊っているような、そんな不思議な気分になるのです。すごく文章のセンスがあるんだなぁと思いました。(あとがきで書くのは大変だったとありますが。)

 

「俺はお前のこと、ふたごのようだと思っているよ」と。

そう、まるで「よう、兄弟、分かるだろ?」のニュアンスで。

私は全然そんな風には思わない……。

それなのに、彼がその言葉を口にするときのあの瞳に、誰かに何かを伝えようとするとき、少し斜視になるあの瞳に見つめられると、私は決まって、悪い魔法にかかったみたいに、こくんと頷いてしまうのだ。

まるで「おう、兄弟、分かるよ、当たり前だろう?」のニュアンスで。

 

文中のこの記載でまず、心が持っていかれました。

 

 

 登場人物は「月島」と「なっちゃん」です。月島となっちゃんとの出会いから、バンドとしてメジャーデビューするまでが描かれた、自伝的な小説です。もちろんのことですが、「月島」=Fukase、「なっちゃん」=Saoriです。また後編では「ぐちりん」=Nakajin、「ラジオ」=DJ LOVEも登場します。

前述しましたが、わりと初期のころからライブに行ったりしているので、小説を読んでいると、頭の中にメンバーの顔が浮かんできてしまいます。最近のではなく、「幻の命」のころの、まだ黒髪のSaoriやちょっと怖い雰囲気のあるFukaseが。

 

小説の中では、月島との関わり方で揺れ動くなっちゃんの内側や月島がADHDを発症して精神病棟へ入院するエピソードなども克明に描かれています。自伝的な小説だからこそ、どこまでがドキュメントでどこからがフィクションなのか、その境界線が曖昧になってしまうのが怖くもあり美しくもあります。

熱心なファンの中には、FukaseとSaoriが付き合っていると信じてやまない人々もいましたし、Fukaseが精神病院に入院していたというのはWikipediaにも載っている有名なエピソードです。それを知っているからこそ、余計になっちゃんが月島へ恋心を抱いていたように、SaoriもFukaseに恋心を抱いたいる時期があったのか、錯乱状態のFukaseがSaoriにカッターナイフを突きつけたのか、など色々勘繰ってしまうのです。

 

フィクションの壁をすり抜けて、実在する人物の内面に入り込んで、その人の心を裸にしているような感覚。自分がいけないことをしているような、読んではいけない私物の日記を読んでいるような感覚になってしまう、ムズムズしてしまうので、自伝的小説は読みたいけど読みたくないのです。ただ、読みたくないのに読んでしまうのです。

 

このSaoriのFukaseのそしてセカオワの結成が描かれた自伝的小説は、「ふたご」という題名ですが、文中にはあまり「ふたご」という言葉は出てこなかった印象があります。また、性格も全く違い、常に反発や喧嘩し合っている月島となっちゃんの姿は、一見ふたごに見えません。むしろ水と油のよう。月島が表ならなっちゃんは裏、月島が裏ならなっちゃんが表なのです。しかし、そんな反発や喧嘩の絶えない中でも、なぜかお互いが惹かれあっていく。そして運命共同体のような、表裏一体のような存在に。

月島となっちゃんの人生の浮き沈みも、呼応するようにまるで反対に訪れます。なっちゃんの頑張り時には月島絶望のど真ん中に。そして、月島が立ち直り調子がよくなると今度はなっちゃんどん底の気分に追いやられる。主人公の二人はらせんを描くように、サインとコサインのように、不思議な旋律のように、浮き沈みを繰り返し、前へと進んでいったように感じました。

 

次はアンサーソングではないですけど、月島視点での「ふたご」を読んでみたいと思いました。「冷静と情熱のあいだ」のように。

 

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

 

 

 

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

 

 

 

紗倉まなさんであったり、尾崎世界観さんであったり、最近違うメディア媒体で活動されていた方が本を出される機会が増えました。賛否両論はありますが、僕はもっともっと活発になっていいと思っています。皆さん、独特の体験や観念を持っている方々ですし、表現する媒体が異なるだけで、表現する、ということに変わりはありませんので。

読んで早々気が早いですが、藤崎さんの2作目、そしてエッセイの文庫化を早くも期待してしまう、そんな素晴らしい作品でした。

 

 

 

 

「古典部」好きにも「米澤穂信」好きにも必携の一冊。「米澤穂信と古典部」 (角川書店)

今回の読書記録は米澤穂信さんの「米澤穂信古典部」(角川書店)です。

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  「わたし、米澤穂信が気になります...!」となったのは2004年、中学生のころです。僕は地元の小さな本屋さんで「春季限定いちごタルト事件」を手に取ります。しかも表紙の絵が気になったから、という理由で。<古典部>シリーズではありませんでした。春季限定を読みおわり、「米澤穂信っていう作家、面白い!」となった僕が次に読んだのが「さよなら妖精」。マーヤとの出会いが僕を米澤沼へと足を踏み入れるきっかけとなりました。それから「クドリャフカの順番」が刊行されて初めて古典部を読み始めました...。とそういう経緯でございました。

 

 そんなもんで、<古典部>シリーズとの出会いは遅かった僕ですが、いざ読み始めるとめんどくさがり屋な折木くんのキャラクターがとてもはまって、というかしっくりきてしまってこちらのシリーズもまた、虜になってしまいました。その<古典部>シリーズからついにファンブックが発売。映画化記念でしょうか。

 

米澤穂信と古典部

米澤穂信と古典部

 

ある日、大日向が地学講義室に持ち込んだのは、鏑矢中学校で配られていた「読書感想の例文」という冊子。盛り上がる一同に、奉太郎は気が気でない――。
書き下ろし新作短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」の他、古典部メンバー四人の本棚、著者の仕事場や執筆資料も初公開!
氷菓』以来、米澤穂信と一五年間ともに歩み、進化を続けている〈古典部〉シリーズについて「広く深く」網羅した必読の一冊。


【CONTENTS】
Interview 〈古典部〉シリーズ15年のあゆみ
古典部〉書き下ろし短編 「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」
対談集――北村薫恩田陸綾辻行人大崎梢
著者による〈古典部〉シリーズ全解説
さらにディープな〈古典部〉隠れネタ大公開!
米澤穂信に30の質問 読者編/作家、声優、漫画家編
あなたの本棚見せてください! 古典部メンバー4人の本棚大公開
お仕事場拝見 2017年
『いまさら翼といわれても』刊行密着レポート!
米澤穂信マイルストーン
講演録 物語のみなもと
門外不出の〈古典部〉ディクショナリー

 

僕が愛してやまない米澤穂信さんの<古典部>シリーズのムックが発売されたのですから買わないわけがありません。こういう場合はKindleではなく、紙で買うのが僕の流儀です。

 

ムック自体はやや薄いですが、内容はかなり充実しています。「米澤穂信古典部」というタイトルに疑義あり、というぐらいに。笑

というよりも「米澤穂信」と「古典部」に関するムックなのでしょうね。それぐらい<古典部>シリーズの内容はもちろんのこと、同シリーズの紹介や掌編、豆知識だけではなく、米澤さんの読書遍歴やおすすめ本の紹介、北村薫さんや恩田陸さん、綾辻行人さん、大崎梢さんなどとの対談記事などもかなり詰め込まれています。

「九マイルは遠すぎる」や「戻り川心中」、最近「太宰治の辞書」の刊行でファン歓喜の<円紫さんと私>シリーズの「六の宮の姫君」など(あと初野晴さんの「クロスキューブ」も!!!)自分の書棚にもある珠玉の本たちも紹介していて、ファンブックとしても、ブックガイドとしても使える。最高です。最高です。

 

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

 

 

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

 

 

退出ゲーム (角川文庫)

退出ゲーム (角川文庫)

 

 


ちなみに米澤作品ではどれが好きですか?と聞かれるとどれも好きなのでなかなか選べませんが、思い入れのある「さよなら妖精」と山椒のきいた「羊たちの儚い祝宴」でしょうか。あとは変わり種のような正統派のような「折れた竜骨」。古典部が出てこない...(笑) 古典部では短編ですが「連峰は晴れているか」が一番好きかもしれません。

 

 

米澤穂信古典部」を読んだ後、特に気になった作品が、市井豊さんの「聴き屋の芸術学部祭」に収録されている 「からくりツィスカの余命」です。こちらは表題作が第5回ミステリーズ!新人賞の佳作に選ばれており、米澤さんもまた第10回から新人賞の選考委員をされております。

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

 

 実際に読んでみましたが、物語の結末を考える短編、読んでいる間ただひたすらに楽しかったです。紙芝居風の劇を想像しながら読み進める瞬間、どういう結末がいいんだろうと考える瞬間、結末がわかった瞬間、そして劇中の文章へと戻り読みする瞬間。純粋にワクワクしながら読むことができました。短編っていうのがまたいいですよね、物語が凝縮されているところが。ワクワク果汁100%みたいな感じでした。笑

 

そんなこんなで古典部ファンブックもとい米澤穂信ファンブック、是非お買い求めを。ちなみにkotobaの最新号でも、米澤穂信さんの理想の本棚が紹介されています。合わせてどうぞ。

 

kotoba(コトバ)2017年秋号

kotoba(コトバ)2017年秋号

 

 

 

 

ノーベル賞受賞作家カズオ・イシグロの「日の名残り」「わたしを離さないで」を今更ながら読んだ

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10月5日、カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞しました。

本当に素晴らしいことだと思います。

ノーベル文学賞にカズオ・イシグロさん|まるわかりノーベル賞2017|NHK NEWS WEB

 

くだんのハルキストたちは今年も村上春樹の受賞を期待していたようですが、村上春樹ノーベル賞は相性が悪いはずであるから、今後も受賞はないと思っています。村上春樹氏の作品が悪いというわけではなく、むしろ僕も好んで読んでいますが、村上氏の小説は読者層に普遍的な心理的影響を与え続ける一方で、社会的な影響はというと抽象的すぎて、貢献しているかどうかの判断がつきづらい。とそう思うわけです。

 

そして今回の焦点は、村上氏ではなく、カズオ・イシグロ氏のほうです。

恥ずかしいことながら、「日の名残り」と「わたしを離さないで」を持っていながらにして、わたしはながらく積読状態にしたまま、ノーベル文学賞の発表日を迎えてしまいました。まったく、遺憾であります。まさに忘れられた巨匠の積読の名残がわたしに読ませないで、というわけでございます。意味不明。

 

聞くところによると、Amazonでの注文は急増し、店舗在庫からは姿を消し、図書館は5年待ちだという。ともすれば、わたしが手元に持っているのは、幸運であり、運命であり、また義憤であるわけです。そんな思いもあって、今回この二作を読むことにしました。そして読み終わる。土屋政雄氏の訳が素晴らしかったおかげで、圧倒的なスピードで読み終わってしまいました。そして感慨に耽るわけであります。

 

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 

(以下Amazon 内容紹介より引用) 

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞ブッカー賞受賞作。

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

(以下Amazon内容紹介より引用)

 自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点。解説/柴田元幸

 

 

日の名残り」はリアリズム的回想、「わたしを離さないで」は非リアリズム的回想と真逆の方向に書かれているような小説でしたが、どちらの小説も衝撃的な事実や出来事を淡々と静謐なタッチで徐々に明らかになっていく、その語り部が十分その出来事を咀嚼しつくし、その登場人物たちの内情がそうであることがさもあたりまえであるかのように描かれている。語り部のある種の人格者的な特徴は両作品とも似ているように感じました。

ただ、「日の名残り」の語り部であるスティーブンスについては、一部回想と事実に齟齬が生じるケースがあり、そういう点では咀嚼した結果、事実を理想化、美化してしまっている点があることだけは留意する必要があるかもしれません。

 

 

日の名残り」は過去の栄華な大英帝国時代への郷愁の念、「わたしを離さないで」は縋り付けない普通の生活への憧憬と諦観が、どちらも悲しくも儚くもあり、しかしながらその現実に向き合い続けたひたむきさというのでしょうか、ノーブル(ノーベルではなく)な佇まい。気高くあれ、の精神も感じられました。

 

限られた人生の中で、過去は事実のまま、現実は現実のままに受け入れるべきであるが、苦しい時代も前を向いて歩いていかなければならない。その先にどんな出来事が待ち受けていようとも、進むべき先に未来がある。それは決して希望のある未来ではないかもしれないが、それでも私たちは進むしかないのだ。カズオ・イシグロ氏はそう私たちに訴えかけているのかもしれない、とそう感じたのでした。

 

おわり。

時間が許す限り、これからもよい小説を読んでいきたいものです。

 

 

 

 

 

カツカレーのようなボリューム感たっぷりの本格ミステリ。鮎川哲也賞受賞作、今村昌弘「屍人荘の殺人」

10月も中旬となると気温がぐっと冷える札幌。ストーブとまではいかないまでも、ダウンを着始めるひともちらほらと見かけるようになりました。

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写真はBARISTART COFFEEのアラビカブレンドのエスプレッソ。砂糖をスプーン3杯半ぐらいいれて甘くして、かき混ぜないでそのまま一口で飲み干す。そこに溜まったコーヒー味の砂糖をスプーンですくって食べる。これで元気が出ます。さぁ、本を読むぞ!という気になれるわけです。

 

さて、第27回鮎川哲也賞受賞作となった今村昌弘氏の「屍人荘の殺人」が満を持して刊行ということで早速読ませていただきました。

 

 

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

 

 (Amazon 内容紹介より引用)

たった一時間半で世界は一変した。
全員が死ぬか生きるかの極限状況下で起きる密室殺人。
史上稀に見る激戦の選考を圧倒的評価で制した、第27回鮎川哲也賞受賞作。

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!! 究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?! 奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!

 

シリーズもののように始まりますが、本作品は初出です。内容紹介では巧みに隠されていますが、本格ミステリの王道クローズドサークルと、ホラーの王道ゾンビのコラボレーションという、カツカレーのような作品となっています。

 

と、ここまでは紫湛荘→屍人荘→ゾンビ荘という連想から想定の範囲内。しかし、ゾンビと戦いながら逃げるバイオハザードのようなホラーミステリかとなめてかかると大やけどする。何せ相手は鮎川哲也賞受賞作。加納朋子氏、北村薫氏、辻真先氏がべた褒めするように、一筋縄ではいかない本格ミステリが待ち受けていたわけです。

 

パンデミックによりゾンビ化した集団から逃げるように別荘に籠城した主人公一行が殺人事件に遭遇する。殺された方法は明らかに人間によるもの、しかし殺された死因は明らかにゾンビによるものであることが明らかとなってくる。こっちをたてればあっちがたたず、あっちをたてればこっちがたたず。そんな状況で次々と殺人事件が発生する。

 

本作の面白いところは、明らかに「ゾンビによる殺人」が発生しているというところ。それでいて、ホワイダニットがおおむね自明であるところでしょうか。すなわち殺された人々は、昨年も別荘に女性を連れてきては酷い扱いをして、自殺や退学に追い込んでいる関係者であり、おそらく彼らに対して強い怒りが殺意へと変わったものによって殺された、という意味でのホワイダニットは、物語中で共通認識である、ということです。ただし、ゾンビに襲われている渦中での殺人、という意味でのホワイダニットは最後の解決編にて明らかにされます。

 

したがって、フーダニット、ハウダニット、真の意味でのホワイダニット、それらのすべてを明らかにしなければならない、という状況下にあったということです。

そしてそれらが全く明らかにならない状態で、物語は90%程終盤へと進んでいくわけです。そこからが怒涛の謎解き。探偵役がハウダニットについて言及、死体損壊のトリックが明らかにされます。そこからの消去法でのフーダニットの解明が美しい。「さて、どちらかな?」というぐらいの追い詰め具合。伏線とも気づかぬ伏線を、数少ない手がかりや言葉の端々をこれでもかというぐらい回収していく流れは見事です。

 

さすがにホワイダニットは犯人の自供による部分が大きかったですが、こちらもなぜ殺したのかが納得せざるを得ない作者の筆力に脱帽しました。ゾンビという奇想天外な状況に置かれた中でのある種の不条理な殺人を、ゾンビがいたからこその殺人理由へと逆手にとって、むしろ昇華させていった、一定の道義に基づく殺人だったと言わせしめた。そこもまた素晴らしかったです。

 

 

(ネタバレを含みます)

一点だけ気になったのは、3人目の殺害の際に利用したコンタクトレンズ用の点眼液。犯人はこれにゾンビの血をいれ、角膜からウイルス感染させたとのことでしたが、どうやって点眼液に血を入れたのか、という点。直接触れれば犯人も感染してしまうことを勘案すると、スポイトや注射針のようなものが必要となるのではないか、と。予め用意していた睡眠薬は固形タイプのものですし、犯人のもちもののなかには注射針のようなものはなかったでしょう。そうすると、キッチンにあるであろう爪楊枝なんかを使ったのでしょうかね。まぁ、そんなことは瑣末なことです。

 

⇒コメントを頂いてから気づきました。容器をからにすれば容器をスポイトのようにして吸い取ることができます。その通りでした。頭が完全に「目薬を中に入れたまま血を吸い取る」という前提から抜け出せていませんでした。ちなみに調べて見たところ、内容液の色がわからない、容器に色のついたスポイト状の点眼液もあるみたいですね。(一般社団法人 日本眼科用剤協会 医療用点眼剤写真一覧より)

 

読み終わった感想ですが、前回の鮎川哲也賞受賞作「ジェリーフィッシュは凍らない」に続き、今作も非常にレベルの高い作品だったなぁと思った次第であります。自分に書けと言われても一生無理な気がしますね。

どちらが良かったかというと難しいところですが、個人的にはバイオハザードなどホラー系は苦手なので、ジェリーに軍配があがるところでしょうか。でも完全に好みの問題で、本格ミステリとしては甲乙つけがたい限りです。

masahirom0504.hatenablog.com

 

鮎川哲也賞は何と言っても加納朋子さんの「ななつのこ」が大大大好きなのですが、相沢沙呼さんの「午前零時のサンドリヨン」、青崎有吾さんの「体育館の殺人」など最近の作品もお気に入りがふえており、ますます本賞に期待を高めるばかりであります。もうすでに来年の大賞が楽しみで仕方ありません・・・・。

 

 

 

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)