読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

停電の夜に読んでしまった ーージュンパ・ラヒリ「停電の夜に」

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2018年9月6日の未明に発生した地震で、北海道の災害無敵神話も崩れてしまいました。

僕が住んでいたところは震度5強、とはいえ積雪で潰れないよう耐震・免震はしっかりされており、我が家は文庫本3冊が落下する程度の無被害でことなきを得ました。もちろん地震直後に急いで本棚を押さえましたが。

その後すぐに停電となり、回復までには時間がかかると思いすぐさまコンビニで水と食料を調達、モバイルバッテリーの充電は十分にあるからと、惜しみなくTwitterで情報を集める事ができました。

 

つい先日、3階ガスメインの新居に引っ越してくる前は、オール電化の高層マンションに住んでいました。もしそこに住んでいたら、と思うとちょっとゾッとしました。高層階だから揺れがすごいだろうし、オール電化で電気もIHコンロも使えず、組み上げ式ポンプも電気利用だから断水と全てのライフラインが立たれたまま、十階分の階段を水を運びながら上り下りしなければならなかったでしょう。

ちかくに大型病院や地下鉄の駅があるのも幸いでした。根拠はありませんが、停電が発生した時優先されるのは、交通インフラや病院→基地局や物流関係→一般住宅の順だと思います。交通インフラは復旧までに時間がかかりますし、非常用電源も無限ではありませんから病院は直ちに復旧させなければ命に関わります。なので、そういった優先区域と同区画にあったのも幸いでした。

 

北海道全体が停電になった、295万戸が停電といえば大事ですが、断水していない家はわりと呑気なところも多く、河川敷では冷蔵庫の中身をふんだんに使ったいつもより豪華なバーベキューなどが行われており、キャンプ道具の保有率の高い北海道ならではのアウトドアライフが繰り広げられていました。たくましいです。

 

地震から2日経った今、慌ただしさは残るものの、ほとんどいつもの日常を取り戻しています。もちろん、厚真町をはじめとして震源の近い区域では死亡者や行方不明者、怪我人も多数出ていますし、清田区厚別区では断水が長引き、また地盤沈下なども見られ、まだ地震の爪痕は癒えきれてはいません。

 

比較的復旧の早かった我が家ですが、自家用車がありませんので遠くに行くこともできず、災害支援という意味では節電をして、おとなしくじっとしているのが懸命かな、ということで、昼間は河川敷で陽の光を利用して読書、夜はランタンの灯りを使ったりKindleで読書をしていました。いつもとあまり変わらない生活です。

 

被災しているなかで不謹慎ではありましたが、パッとこんな時はこれを読むしかないと思ったものがありました。ジュンパ・ラヒリ「停電の夜に」です。

 

停電の夜に (新潮文庫)

停電の夜に (新潮文庫)

 

 (Amazon 内容紹介より引用)

毎夜1時間の停電の夜に、ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦──「停電の夜に」。観光で訪れたインドで、なぜか夫への内緒事をタクシー運転手に打ち明ける妻──「病気の通訳」。夫婦、家族など親しい関係の中に存在する亀裂を、みずみずしい感性と端麗な文章で表す9編。ピュリツァー賞など著名な文学賞を総なめにした、インド系新人作家の鮮烈なデビュー短編集。

 

停電の夜に「停電の夜に」を読む。旅に出る時は旅の本を読むのが良い、とはよく言いますが、停電の時によもやこれを読むとは思いませんでした。が頭に浮かんでしまいました。原作は"A Temporary Matter"ですが。

 

小説内の停電は雪害の復旧工事のために5日間だけ1時間ずつ計画停電を行うということで、何時間も真っ暗闇というよりはイベントのような感じ。夫婦仲が冷めつつあるシュクマールとショーバがロウソクの灯りに向かい合って、お互いの隠し事を少しずつ打ち明け始めるという物語です。

 

この「停電の夜に」をはじめとする9つの短編集、どの作品も表現が美しいです。読みやすい文章なのですが、必要かつ十分な表現で、アメリカの中で過ごすインド系移民の日常や出来事、アメリカの中でのインドが光る部分を探し求める苦悩が描かれているように感じました。作者自身がインド系二世であり、実際にアメリカで生活した時の苦悩や経験が色濃く反映されているのでしょうか。

 

書かれた作品は多くありませんが、だからこそ他の作品も読んで見たいとおもえるような作品でした。

 

 

地震から一週間は余震に警戒してくださいとのことなので、まだしばらく節電して読書をする生活が続きますが、これを好機として色々な本にチャレンジしてみようと思います。

 

では、お互いに気をつけましょう。

 

 

小説家による小説家の小説 ーーデヴィッド・ゴードン「二流小説家」

 

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

二流小説家 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

 

「二流小説家」は2011年文春ミステリーベスト10の第1位、2012年このミステリーがすごい!第1位、2012年ミステリが読みたい第1位、で三冠を達成した、ディヴィッド・ゴードンによる推理小説だ。

 

様々な筆名を使い、ポルノ小説、SF小説、ミステリ小説、ヴァンパイア小説などを執筆する小説家ハリー・ブロックが、連続殺人鬼として界隈を震撼させたダリアン・クレイの告白本を書くことになる。執筆を依頼されたブロックは渋々ながらも筆を進めるうちに、クレイの手口にそっくりな殺人事件に巻き込まれることになる。というのがあらすじ。

 

500ページ超の長編ながら、アメリカ小説ならぬ、繊細で自虐的な主人公と軽妙洒脱な語り口でページのめくる手が止まらない。

 

ただ、読後感はあまり良くなかった。物語は次の一文から始まる。

小説は冒頭の一文が何より肝心だ。唯一の例外と言えるのは、結びの一文だろう。

この小説はスピード感あるサスペンスのように見せながら、この殺人事件が終結したあとまとめ直して執筆したというメタ小説的な立ち位置を取っている。

そのため、途中で小説の引用文が入り、物語の途中で読者への挑戦や小説家としての哲学などが紛れ込ませられている。

 

引用した冒頭の一文、そして結びの一文を読んでも、果たしてその一文が肝心であったのかは甚だ不明だった。

 

書かれた小説の体裁をとって書かれた小説、もいうメタ小説の構造自体がメタ小説なのではないか、と現実の猟奇的殺人の記事を漁ってみたものの、自分が探した範囲では見つけられなかった。

 

しかし、最終ページを読む限りでは、書かれた「小説の体裁をとって書かれた小説」の体裁をとって書かれた小説、のように思えてならないのだけれど。

 

 

 

【ご報告】本の帯に感想が載りました!

 

 

簡単なご報告です。

2018年8月23日に発売された本谷有希子さんの「静かに、ねぇ、静かに」の単行本の帯に僕 ( @masahirom_0504 )の感想を載せていただきました。

 

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに

 

 

「すごい、なんか、すごい。」

 

わずか12文字(笑)

されど12文字です。

 

以前ブログに載せた感想から引用されたもので、本谷さんのタイトルと呼応するようにSNSの頭文字で書いたところ、印象に止まったようでした。

 

 

masahirom0504.hatenablog.com

 

 

発売日当日に、講談社から献本していただきまして。純文学系の作家の中でダントツに好きな作家、本谷さんからの、僕の名前入りサイン本ということで感涙です。

 

一生の宝物です。

 

是非お買い求めください(笑)

 

 

最近の下着の標準化について

下着の校則についての話が話題となっていますが、この記事は全く関係なく、単に僕が最近コスパがとても良いと思っている下着類について書くだけの記事です。

ビジネスおよびプライベートに使えるコスパ良しの肌着をまとめました。

 

 

 

上肌着(ビジネス用)

ビジネス用の肌着は圧倒的にユニクロのエアリズムがオススメです。

www.uniqlo.com

 

圧倒的な安さ。これ5枚あれば平日は完璧です。メッシュ生地もありますが破れやすいので通常のがオススメです。ワイシャツとの兼ね合いを考えるとVネックがよく、すけにくさからベージュがオススメです。(黒もすけないと思います)

昔はポリエステル85%、ポリウレタン15%だったんですが、最近のはポリエステル89%、ポリウレタン11%と通気性を改善しています。

ただ、化学繊維である以上汗を掻くと乾きづらい点には注意が必要です。

 

上肌着(プライベート用)

プライベートでは前開きにすることも考えると無印のオーガニックコットンTシャツがかなり着心地が良い。

www.muji.net

もうこのご時世、どのTシャツもオーガニックコットンを使っているんでしょ、という感じではあるんですが、何よりも安く、何よりも着心地がよく、何回洗っても生地が磨耗しないのはさすがの無印クオリティという感じです。色はネイビー、グレー、白の3色あり、色違いで着まわせ、1枚でもシャツの下でも自然に馴染む風合いが最高です。丸首の方が柔らかい印象でより休日感、リラックス感が出ますよ。

 

パンツ

ポールスミス無印良品などいろいろなものを経て、最終的にたどり着くのがやはりユニクロのエアリズムです。

www.uniqlo.com

履いたあとははあまりの通気性に一瞬股がヒュッとするんですが、履いてないような心地よさがたまらない。それがこの値段で買えるんだから最高ですね。変に柄入りを買うよりも単色のネイビーやブラックで無難にしたほうが良いです。笑

 

靴下

靴下はビジネスでも普段からでも履ける消臭靴下を探していて、5本指ソックスなども試しましたが、一番良かったのは5本指ではなく普通のソックス。それがMXPのデオドラントソックスです。

www.goldwin.co.jp

スポーツ用品店やアウトドア用品店でも取り扱われるお墨付きの消臭ソックスのなかで、一番ビジネスでもプライベートでも両方使える!!となったのがこの靴下です。

僕は足汗をかなり掻くのですが、他の靴下と比較しても履いた瞬間からの心地よさが全然違います。1日履いた後でも足の匂いはおろか革靴の匂いすら何も匂いません。何度洗っても消臭力が落ちにくく、1足2千円でも試してみる価値大です。

www.goldwin.co.jp

ちなみにスニーカーソックスもあり、夏はスニーカー履いて足首は見せたいという場合にもバッチリ対応できるので、合わせて購入するのがマストですね!

 

 

ちなみにですが、ぼくもたまには靴下で遊びたくなります。おしゃれは足元からっていいますしね。そんな僕が個人的に気に入っている靴下ブランドがCHICSTOCKS(シックストックス)です。

www.chicstocks.com

日本で靴下製造で有名な県は?といえば奈良県!というぐらい、奈良県にはたくさんのソックスブランドがありますが、シックストックスもそんな奈良ブランドの一つです。

2017年に立ち上がったばかりのブランドですが、程よいデザインと綿メインの柔らかい履き心地がたまりません。

友人への贈り物にも最適で、サンダル、スニーカー、革靴、どんな靴にでも馴染むオススメの靴下です!

 

 

また、変わったり追加したりがあれば随時更新します。

 

 

アンナ・カヴァン「氷」(ちくま文庫)

久々の読書記録。最近はミステリの枠にとどまらず、SFも読むようになりました。といっても、SF初心者。まずは、というところで世界的名作を読むことにしました。
今回は、アンナ・カヴァンの「氷」(ちくま文庫)です。

 

文庫版のこの黒一色の表紙が、とっても格好いいです。黒色の背景に浮かぶ「氷」の字は、 まるで結晶のように見えますが、作品の中の「氷」は終焉の使者として描かれています。

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

 

 (Amazon 内容紹介より)

異常な寒波のなか、私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気候変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、要塞のような“高い館”で絶対的な力を振るう長官と対峙するが…。迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで、世界中に冷たい熱狂を引き起こした伝説的名作。

 

 

この物語の主要な人物(および現象)は、「私」と「少女」(と「長官」)、そして迫り来る「氷」のみです。フィヨルドなど地形名称は登場するものの、人名や地名などの固有名詞は一切登場せず、極限まで抽象化された世界の中で、氷に閉ざされる世界の終焉、「私」と「少女」のやりとりが淡々と記されています。

 

この物語は読みづらい。その理由は3点あります。

 

1点目は、構図の不変です。迫り来る「氷」、「少女」を追い続ける「私」、「私」を拒み続ける「少女」。物語の構図は最後まで殆ど変わりません。そして「私」なぜ偏執的に「少女」を追い続けるのか、その説明は最後までなされません。最後に「少女」は「私」を受け入れ始めますが、物語はそこで終了し、彼らがその後氷に閉ざされた世界に飲み込まれて行ったのかどうかは描かれていません。「私」の執着にフォーカスすると男である「私」の自己満足小説のように読めてしまいますが、それは本質ではないのでしょう。

 

2点目は、不連続的な連続性です。物語としては、虚構の中で「私」の現実と幻想が、不連続的に複雑に入れ代わり続けるのですが、文章としてはその入れ替わりが連続して書かれているため、ここまでは現実、ここからは「私」の妄想、と区切りをつけて読み進めることが非常に難しい。村上春樹の小説のようです。むしろ、「私」自身が妄想と現実の狭間で現実を生きているものとして読むべきなのでしょうか。

 

3点目は物語の抽象化です。先ほど触れたように物語が過度に抽象化されていることから、彼らが今どこにいて、昼なのか夜なのか、どこに向かっているのか、の情報が与えられないまま読者は読み進めなければなりません。しかしだからこそ、真っ白な世界に「少女」と「私」の姿や行動が、克明に浮き彫りになる、その対比が美しく見させてくれるのかもしれません。

 

この、不変の構図、不明瞭な識閾、抽象化された世界観が、この物語をとても読みづらく、しかしとても幻想的に変えているのだと思われます。

 

 


クリストファー・プリーストの序文には、以下のように描かれています。

スリップストリーム は、科学(とその所産)を無意識の領域に、メタファ、エモーション、シンボルの領域にシフトさせる。スリップストリームは、現代の科学(および科学がもたらしたもの)に対するひとつのレスポンスであり、科学を理解することではないとしても、科学をめぐる人々の感覚を表現してみせる試みなのだ。しかし、これは"アレゴリー"ではない。  

そして、この「氷」はスリップストリームを代表する作品であるとされています。物語を読み終えた後、この序文に再び触れた時、スリップストリーム作品はアレゴリーではないという文に驚きました。

 

アンナ・カヴァンは、自殺未遂、精神病院への入院、そしてヘロイン中毒。この「氷」という作品を上梓した一年後に、ヘロインの摂取によりなくなっています。だからこそ、この「氷」という物語の少女は「アンナ・カヴァン」自身であり、「私」は「ヘロイン」、そして「氷」は「死」のオマージュであるように見えてならなかったのです。だからこそ、物語が進むにつれ世界は抽象化・単純化されていった、「少女」は「私」を拒み続け、しかし最後に「氷」に閉ざされる世界で「私」を受け入れたのだろうと。

 

こういうアレゴリーは小説・漫画・ドラマ・ゲーム、様々な作品で見られます。最近プレイしたRIMEというゲームもこの類でしょう。

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この考え方を、クリストファー・プリーストは真っ向から(それも序文でだ!)否定しているのです。この物語にアレゴリーとしての厳密性はなく、ただただ神秘的で、蠱惑的であると。(クリストファーの記載では「氷」=「ヘロイン」と仮定している)

 

しかし、そうするとこの物語はたちまち捉えどころのない物語として、雲散霧消してしまう。私にはどうしても、そのように見えてならないのですが...。やはり、読むのが難しい物語であることには変わりないのでしょう。