河野裕「最良の嘘の最後のひと言」(東京創元社)を読みました。
3月に入り太陽は小春日和のような温かさがありますが、さすがは冬の北海道、太陽に騙され薄着ででると待っているのはマイナス2度だったりします。
今回は、河野裕さんの「最良の嘘の最後のひと言」(東京創元社)を読みました。
(以下Amazon 内容紹介より引用)
検索エンジンとSNSで世界的な成功を収めた企業・ハルウィンには、超能力研究の噂があった。それを受け、ハルウィンはジョーク企画として「4月1日に年収8000万で超能力者をひとり採用する」という告知を出す。そして審査を経て、自称超能力者の7名が3月31日の夜に街中で行われる最終試験に臨むことに。ある目的のために参加した大学生・市倉は、同じ参加者の日比野という少女と組み、1通しかない採用通知書を奪うため、策略を駆使して騙し合いに挑む。『いなくなれ、群青』、〈サクラダリセット〉の著者が贈る、ノンストップ・ミステリ。
「かわのひろし」さんかと思ったら、「こうのゆたか」さんなんですね。そして、同姓同名の声優の方がいらっしゃるので、Twitterでは(文章のほう)となっているのですね。笑
内容紹介にも書いてあるように、「サクラダリセット」シリーズや「いなくなれ、群青」などの階段島シリーズが主な著作で、創元推理文庫から出すのか!という物珍しさから手に取りましたが......。面白い。
面白い作品でした。作品を読む前は、いわゆる超能力者同士が一人になるまで戦うサバイバルゲームのような作品で、「未来日記」とか「魔法少女育成計画」みたいな、殺し合いが繰り広げられているんだろうなぁと思っていました。そういう殺し合い系はあまり好きではないので買ってはみたものの、という感じだったんです。
(もちろん、「魔法少女育成計画」はそのグロテスクさを抜きにしても、能力をつかった心理戦が高度に繰り広げられていて、とても面白い作品です。そして「未来日記」もトラウマになりそうなぐらい何度も何度も読んだ漫画です。)
でも実際に、河野さんの作品を読んでみると思っていたものとは全く違って、人の死なない超能力者サバイバル。なんというか「優しいサバイバルミステリ」という感じがしました。(実際に優しいわけではないのですが)
こういうノンストップアクションのような小説はネタバレしてしまうと面白くないので深くは書きませんが、登場人物全員が小さな嘘から大きな嘘まで、さまざまな嘘を交えながら対戦相手と協力したり駆け引きしたりしていきます。広がりに広がったさまざまな伏線や嘘を最後で続々と回収していくときのその緻密さと爽快感。そしてハッピーエンド。突飛なキャラクターなどがいないところもよかったです。なんというか、創元推理文庫らしい。笑
ストーリーの中で「最良の嘘」とは何か、という話になります。ある人は「誠実な嘘」であるといい、それはだれかのためを思ってついた嘘で、嘘を突き通す覚悟でついた嘘でで、万が一ばれてしまっても笑えるようなそんな嘘であると。はたしてそのついた嘘の「最後のひと言」が「最良の嘘」であったのかどうかは、読んで確かめてみてください。
物語の中で、BGMとして印象的だった「ザ・エンターテイナー」。これは1973年にアメリカで公開された映画「スティング」のテーマソングでした。「スティング」は詐欺師が主人公のコメディ映画で、最後は「死んだふりをして大がかりな嘘をついて、実は誰も死なずに悪い奴だけが騙されて、みんなで笑いながらその場を去っていく」ように物語が終わります。
あれ、なんだかこれ、似てませんか?
エピローグで、当日のみんなの行動を一覧にまとめておさらいをしています。
河野さんは「ザ・エンターテイナー」から着想して、エピローグのようなプロットをもとに、この「最良の嘘の最後のひと言」を書かれたのではないか、などと邪推してしまいました。
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