読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

宮内悠介「あとは野となれ大和撫子」は、中央アジアの昨今を訴えかける社会派エンターテイメント小説でした。

こんばんは。5月です。

といってもすでに後半に差し掛かっています。

 

仕事のほうは相変わらず忙しく、そのせいで土日はほぼ毎週疲れと風邪でダウン、意識が朦朧としながら、小説を読み耽っている。そんな状況です。

 

今回は宮内悠介さんの「あとは野となれ大和撫子」(KADOKAWA)を読みました。

 

あとは野となれ大和撫子

あとは野となれ大和撫子

 

(以下Amazon 内容紹介より引用)

中央アジアのアラルスタン。ソビエト時代の末期に建てられた沙漠の小国だ。この国では、初代大統領が側室を囲っていた後宮(ハレム)を将来有望な女性たちの高等教育の場に変え、様々な理由で居場所を無くした少女たちが、政治家や外交官を目指して日夜勉学に励んでいた。日本人少女ナツキは両親を紛争で失い、ここに身を寄せる者の一人。後宮の若い衆のリーダーであるアイシャ、姉と慕う面倒見の良いジャミラとともに気楽な日々を送っていたが、現大統領が暗殺され、事態は一変する。国の危機にもかかわらず中枢を担っていた男たちは逃亡し、残されたのは後宮の少女のみ。彼女たちはこの国を――自分たちの居場所を守るため、自ら臨時政府を立ち上げ、「国家をやってみる」べく奮闘するが……!?

内紛、外交、宗教対立、テロに陰謀、環境破壊と問題は山積み。
それでも、つらい今日を笑い飛ばして明日へ進む
彼女たちが最後に掴み取るものとは――?

 

内容紹介に詰め込まれること詰め込まれること。

 

2000年代の環境開発の弊害として発生した、アラル海の干上がりによって出来た小国アラルスタン。ウズベキスタンの自治州から独立した国家の大統領が演説中に殺害されて、残された可憐な(?)女の子たちが国家の運営に!あー、もうどうなっちゃうわけ!!

 

と、海外を舞台にしたハーフフィクションを思わせる前半の説明から、後半は一転ライトノベルのようなあらすじに、頭が混乱させられる。買うかどうか迷っていたところに、Twitterでおすすめですよという声があったので、思い切って買ってみたのでした。

 

 

確かに、物語はあらすじのとおりで、間違いないのですが…。

 

 

思っていた以上に、近い過去、今、そして未来の中央アジアで、世界で起こっていることを、起こるかもしれない環境問題や宗教対立、あまたの時事問題を、わかりやすく、そして鮮烈に書かれている、ノンフィクションのようなフィクションでした。

 

これは面白い!!さらっと読めて、そしてためになる。

 

 

もちろん、ありえねーだろ!っていうギャグみたいな展開もあるんですが、読む前と読み終わった後では、中央アジアの知識は雲泥の差、月と鼈です。

 

 

宮内さんといえば、日系二世・三世のアメリカでの生き様をつづった「カブールの園」で話題となりましたが、こちらも「日本ではないところで暮らす日本人(日系人)」に焦点を当てています。海外が舞台の小説も登場人物に日本名がいるだけで、ちょっと読みやすくなっているように感じられるのは気のせいでしょうか。笑

 

 

カブールの園

カブールの園

 

 

「わたしは虐められていただけ。人種差別なんか受けてない!断じて!」

 

この文章を読んだとき、ハッと思いました。

 

「いじめ」も絶対に許されないことですが、人種差別を受けた人たちにとっては、ただの「いじめ」だったらよかったのに、と思ってしまうぐらい根深い苦しみなんだと。

 

僕も中学生の人は、ある特定の人に攻撃される、今でいう「いじめ」のようなものを受けた時期があったけれども、(幸い後に残るほど酷いものではなかったけれど)、差別は受けたことがない。ある意味では当たり前だ、日本に住んでいる日本人なのだから。そして差別をしたという意識もない。

 

しかし、無意識に差別をしているのかもしれない。私たちの先祖は、アイヌを迫害してきた歴史があるし、女性の社会進出以前の性差や職業差別をしてきた\された歴史もあった。だから、今この瞬間、無意識的に誰かを差別してる可能性だって否定できない。ただ、日本はほぼ単一民族であり、「差別」の重さを意識している日本人は少ない。僕だってそう。そして歴史を重んじない。

 

このあいだ韓国から来た男性が「ファッキンコリアン」などと罵声を浴びせられる話があったときもそう思った。酔っ払いからすれば、愛嬌愛嬌、ただの「いじり」のつもりかもしれない。でも、彼は絶対差別だと受け取ったと思う。いじりには境界はないのかもしれないが、差別は完全なる線引きだと思う。俺のテリトリーに入ってくるんじゃねぇと。彼は苦笑しながら立ち去った。

 

きっと僕が彼ならこう言う。

「これは差別じゃないよ。ただのいじりだよ。」

そしてこう思う。

「悔しい。悔しい悔しい悔しい。」

 

いろいろと考えさせられる一文でした。

 

 

日系人が主人公の「カブールの園」とは異なり、「あとは野となれ大和撫子」は両親は日本人で転勤で来たものの、両親が爆発に巻き込まれて、みなしごとなった日本人が主人公。

「日本人」が異物のように扱われるシーンは極力最低限になっていて、中央アジアの情勢をあくまでもエンターテイメントとして昇華させたかった、そこだけに焦点を当てたかったのだろうと思います。

 

純文学(芥川賞)好きには「カブールの園」、エンターテイメント(直木賞)好きには「あとは野となれ大和撫子」がおすすめです。どちらの切り口も面白い宮内悠介さんの作品、これからも読んでいきたいと思います。

 

蛇足ですが、上記2作品を読んでて、関連する気がした書籍をいくつか記載し終わりにします。

 

一つ目は、もしアラルスタンという国があったら、という現実とは異なるもう一つの現実を舞台にしたという点で、知念実希人さんの「屋上のテロリスト」です。

 

屋上のテロリスト (光文社文庫)

屋上のテロリスト (光文社文庫)

 

 

こちらは、もしポツダム宣言が受託が遅くなり、日本がベルリンのように東西に分裂したら、という舞台の小説です。ジャンルは青春ミステリーでしょうか。

 

 

二つ目は、「あとは野となれ大和撫子」でナツキが言っていた、私はいつかこの地に水を戻したい、ただこの地を干せ上がらせたみたいに、またほかの地域に干害をもたらすかもしれない、チョウの羽ばたきが台風を起こすように、みたいな話から。

ズバリですが、思い出すのはこの映画ですよね。

 

 

そしてPS4のゲームも思い出しましたよ。こちらも名作です。

 

 

 

そして三つ目、後宮(パレス)つながりで、といってもこちらは中国ですが。

 

後宮小説 (新潮文庫)

後宮小説 (新潮文庫)

 

 

もう20年以上も前の作品ですが、とても有名な作品ですね。

 

 

 

そして最後に、「カブールの園」で第二次世界大戦下で日本人が収容されていたマンザナーに訪れるシーンがありますが、こちらもそのマンザナーに収容されていた、従軍になった日本人をテーマに書かれたミステリー。

 

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

青鉛筆の女 (創元推理文庫)

 

 

これについては、以前記事で触れました。

 

masahirom0504.hatenablog.com

 

 

こんな感じで、最近読んだ小説同士が、リンクしたように感じる時があります。

そんな時ちょっと楽しくなるのです。

 

蛇足でしたね。

 

では。