読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

辻村深月「かがみの孤城」は、原点回帰かつ最高純度のまさに辻村さんらしいファンタジーミステリーでした。

こんばんは。

二日続けての投稿です。

今回は辻村深月さんの「かがみの孤城」(ポプラ社)です。

この本を読み終わった瞬間、宮内さんの「あとは野となれ大和撫子」のように、感想を書かずにはいてもたってもいられなくなってしまったのです。

 

 

かがみの孤城

かがみの孤城

 

 (以下Amazon 内容紹介より引用)

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

 

300booksでも言っていましたが、この作品は辻村作品のなかでも人気の高い「スロウハイツの神様」が好きな人なら、絶対に一読することをお勧めしたい小説です。かならずや、寝る間も惜しんで一気読みをしてしまうはずです。

そして、「ぼくのメジャースプーン」、「凍りのクジラ」、「冷たい校舎の時は止まる」、「子どもたちは夜と遊ぶ」など初期作品が好きな人にも、おすすめです。原点回帰であり、かつ洗練された最高傑作に間違いありません。

 

300books.net

 

(2017/6/14追記)

王様のブランチで「かがみの孤城」が紹介された後、一時的にアクセス数が上がりました。びっくり。番組内でも大絶賛されていました。

また、最新号の「ダ・ヴィンチ」でもプラチナ本として紹介され、ダ・ヴィンチニュースでもインタビュー記事が2度紹介されていました。

 

 

さて、気になるあらすじはこんな感じ。

 

 

主人公の安西こころは、学校でのいじめが原因で家に閉じこもるようになってしまっていた。ある時、部屋の全身鏡が光っていて、手をふれるとこころは不思議なお城へと導かれる。この城の主はオオカミの仮面をかぶった小さな女の子、「オオカミさま」。こころは、同じようにオオカミさまに連れられてきた6人の中学生とともに、なんでも願いがかなう一本の「願いの鍵」を探しに行くのでした...。

 

いや、これ、辻村さんすぎるでしょ!!

辻村さんといえば、ファンタジーミステリー、ファンタジーミステリーといえば、辻村さん。

 

装丁も素敵すぎるし。カバーももちろんいいんだけど、カバーを外すと、外国文学っぽい表紙に物語とのリンクを感じるし。

 

 

 

 

…。

 

そう。ミステリーなんです。

以下、ネタバレも含んじゃいますが、辻村作品ただのファンタジーじゃ終わりません。

ファンタジアスなミステリー。易しい、ではなく、優しい謎解きが含まれたファンタジーの世界。

 

 

 

 

 

 

ここから先は、本を読んだ方のみスクロールしてください。

 

 

こころがかがみの孤城で出会った、6人の中学生、アキ、スバル、リオン、マサムネ、フウカ、ウレシノ。彼らはみんな、日本の学校に通えていない子供たちでした。

 

物語の中で、彼らは葛藤しながら触れ合っていくうちに、少しずつお互いに心を開いていきます。孤城の中でしか出会わない、秘密を共有できる仲間たち。

 

いじめられていて、友達に裏切者あつかいをされて、自分がいらない子のように思えて、なんとなくだるくていかなくなったらいけなくなって、親が過保護で、義理の父親に暴力を振るわれて、金づるとしてしか見られてなくて。

 

この小説で挙げられていたのはたったの7例ですが、それぞれがそれぞれの要因で学校に通えなくなった事情を打ち明けていきます。(最後まで打ち明けられない子もいますが)

 

孤城が空いているのは5月1日から3月30日まで。願いの鍵を見つけられないまま、お城での楽しかった日々は刻一刻と過ぎていきます。

(きっと4月からの最初の一か月は学校に通える子も、5月ぐらいから通えなくなるのかもしれません。)

 

 

あるとき、アキが学校の制服を着て孤城に行きました。そこでみんなは気づきました。自分が通っている学校の制服だと。学校に通えない子供たちはみんな同じ学校の生徒だったと。

マサムネは提案しました。2学期の最初の日、保健室でも、音楽室でもいいから1日だけ学校であってみよう、と。みんなは決心しました、だって私たちは一人じゃないのだから。

でも、彼らは出会えませんでした。彼らの2学期の最初の日、みんな同じ学校に行ったはずなのに。もしかして、並行世界。パラレルワールド。彼らは絶対に出会えないことに気づかされるのです。オオカミさまは、私たちを弄んでいるのだと。

しかしこれもまた、早とちりなのです。オオカミさまはそんな悪い子じゃありません。物語は確信に近づき、こころがそれに気づきます。私たちの世界はずれている。でも並行世界なんかじゃない。ずれているのは時間なんだと。

 

ここまでは、ちゃんと読んでいた読者はすぐ気づいたはずです。ゲームでの食い違い、音楽プレイヤー、うるう年だから出会えた二人、街並みの移り変わり、ハッピーマンデー制度、そして変わらない中学校の制服。

 

スバルのイマは1985年。

アキのイマは1992年。

こころとリオンのイマは2006年。

マサムネのイマは2013年。

フウカのイマは2020年。

そして、ウレシノのイマは2027年。

 

彼らはそれぞれのイマから、時の止まった校舎、ではなくお城へと導かれていたのでした。彼らの間には7年ごとのスキマがあります。でも1999年の中学生はいませんし、こころとリオンは同い年です。

 

そしてリオンは気づくのです。オオカミさまは死んだお姉さんだと。1999年に中学校に通いたくても通えなかったお姉さんだと。お姉さんは日本の中学校に通いたくても通えなかったリオンに同じ中学校の友達を作ってあげたかった。それがオオカミさまの願いでした。偶然にも、リオンが日本に戻ってきたとき、同じ中学校に友達が最初からいるのです。それがこころなのでした。

 

こころとリオンは同じ中学校に通う友達になりました。

スバルは工業高校にすすみます。いつか独自のゲーム機をつくって、マサムネの「このゲーム機は友達が作ったんだ」をほんとにしてあげると決意します。

フウカは、もし覚えていたら、ウレシノと運命的な出会いが再びできると信じて、ウレシノの告白を了承します。

そしてアキは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

アキは、喜多嶋晶子は、大学時代のフリースクールのボランティアを通じて、リオンの姉、実生に出会います。アキ自身中学校に通えない時期があったこと、実生の死に咽び泣く男の子の姿をみて、いつか自分を救ってくれたように、誰かの助けになってあげたい。そう決意します。それから月日は流れ、3人の子どもと出会います。こころと、マサムネと、そしてウレシノと。

 

 

物語は、こころが中心の世界で進んでいきますが、その孤城はリオンを救うためだったり、喜多嶋先生=アキがこころやマサムネ、ウレシノの助けになっていたり、そしてそのアキ自身も、オオカミさまやほかの6人に手を差し伸べてもらったり。

 

仲間はずれになったり、道をはずれてしまったり。

はずれてしまった7人の始まりは、仲間はずれのいない終わりへと向かっていったのでした。

 

~ Fin. ~

 

 

まとめなおしても、素敵な物語です。これ自体がまるで絵本のような、童話のような。

子どもから大人まで、是非読んでほしい物語ですし、何度も何度も読み返したい小説だと思いました。

 

 

ほんとうにおしまい。