読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

そして少女は再び屋上で死を迎え、物語は始まる。逸木裕「少女は夜を綴らない」を読みました。

こんばんは。

7月も終盤に差し掛かっていますが、相変わらず忙しい僕。
今回は出張先からブログを更新しています。

 

今回読んだのは、逸木裕(いつきゆう)さんの「少女は夜を綴らない」(角川書店)です。

 

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少女は夜を綴らない

少女は夜を綴らない

 

 

(以下Amazon 内容紹介より引用)

“人を傷つけてしまうかもしれない”という強迫観念に囚われている、中学3年生の山根理子。彼女は小学6年生のときに同級生の加奈子を目の前で“死なせてしまった”ことを、トラウマとして抱えていた。 “身近な人間の殺害計画”を“夜の日記”と名付けたノートに綴ることで心を落ち着け、どうにか学校生活を送っていた理子の前に、ある日、加奈子の弟・悠人が現れる。“加奈子の死”にまつわる理子の秘密を暴露すると脅され、理子は悠人の父親を殺す計画を手伝うことに。やむを得ず殺害計画を考えるうち、誰にも言えなかった“夜の日記”を共有できる悠人に心惹かれていく理子。やがてふたりは殺害計画を実行に移すが――。
 
逸木さんは、デビュー作「虹を待つ彼女」で横溝正史ミステリ大賞を受賞しており、今回が2作目。前作はAIの話題が盛り返してきていた時期に親和性の高かった、人工知能をテーマにしており、テロを起こした少女の自我を人工知能で再現していくうちに彼女の心の中が少しずつ見えてきて謎に迫っていく…、といった近未来的なミステリでしたが…。
 
 

 

虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

 

 

 
2作目はうって変わって、”少し”個性はあるものの、普通の女の子が普通に学校に通いながら…、と青春ミステリよりの作品になっている。
いや、なっていない。
ページを開くとすぐわかる通り、主人公は普通の女の子ではないし、普通の学校生活もおくれていない。
 
さて。
 
前作は、天才少女がビルの屋上でドローンに銃で撃たれて自殺するところから物語がはじまった。
そして今作もまた、一人の少女が屋上で毒を飲まされ転落死する。
表紙もまたしても屋上のワンシーン。
作者にとって、屋上と少女の死は、切っても切り離せないのかもしれない。
 
 そして、物語は始まる。
 
主人公の少女は、友達に毒を飲ませ転落する、その死の一部始終を見てから、無意識に誰かを殺したい衝動に駆られているのではないか、実際に殺してしまっているのではないか、という加害恐怖に苛まれながら、学校生活を送りはじめる。
 
その衝動は、数少ないが信頼のおける友達と話しているときやボードゲーム部の部活動を行っているときにも訪れ、ふとした瞬間、誰かを殺してしまっているのではないか。
そんな恐怖が常に付きまとっているのである。そんな衝動を抑えるために、少女は現実味のある殺人妄想を日々綴って、綴り続ける。
 
ある時、殺してしまった少女の弟から殺人計画を手伝ってほしい、と話を持ち掛けられる。少女は、殺人なんてやってはいけないという思いとは裏腹に、少年の殺人への羨望が、少女にとっては加害恐怖からの解放へと繋がり、やがて安堵を覚え始める。
それは、自身の殺人衝動や殺人日記を受け入れてくれたからであり、その感覚は次第に意識的に殺人を起こして殺人者であることを受け入れてしまえば加害恐怖におびえなくても済むのではないかとエスカレートしていく。
少女の行きつく先はどこか。そして殺人計画の行方は。
 
 
そんな普通ではない境遇の少女の、普通ではない学校生活を、殺伐ながら軽快に描かれており、しかし最終的にはミステリの伏線を回収し、収まるところに収まり、さらには少女にまっとうな少女としての生きる希望さえも与えてくれるような物語になっている。
 
なんなんだ、この気持ちは、と。
抵抗しながらも歪んでいく少女は、「悪い人」と「いい人」にぶつかりながら、形作られていく。
そして読み終わったときに、こう思う。
 
やっぱり、少女は普通の女の子だったと。
そう、少女は夜を綴らない。いや、綴れない。
 
 
後味の良い(いや、一部は悪いのか?)物語の終わり方であったし、早い物語の展開で、一気に読み進めさせられた気がする。
恐るべし、逸木裕。恐るべし、屋上の少女。
次はどんな少女が屋上で死を迎えるのか。不謹慎ながら楽しみでもある。
 
おわり。