読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

ただのセカオワ本ではない、葛藤と前進が克明に描かれた小説。藤崎彩織「ふたご」を読みました。

今回は、藤崎彩織さんの「ふたご」(文藝春秋)です。

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発売日当日に読みたかったので、今回はKindleで買いました。北海道は東京で発売されてから2日後(2日後が土日祝の場合翌週の営業日)でないと読めないことも多いので、新刊でとにかく早めに読みたい!というときは電子書籍が便利ですね。

また、家の中が本でまた埋まり始めてきたので、少しでも在庫圧縮しなければという気持ちがあったというのもまたKindleで買った一つの理由です。2017年10月末現在で、Kindleに約700冊、実書籍で約1,200~1,300冊ぐらいあるんじゃないかと思います。自転車やキャンプ用品なども増やしていきたいので、そろそろもう少し大きい部屋に引っ越して書籍スペースを拡大するのもありかなぁと。なるべくシンプルな暮らしにあこがれていますが、好きなものを減らす必要はないと思っています。

 

藤崎さんは、SEKAI NO OWARIのバンドメンバー、Saoriとしても有名ですよね。僕も「世界の終わり」時代のときから何回か札幌のライブを見に行ったことがありますが、そのときから純粋なファンタジーのような世界観やメッセージ性の強い歌詞が特徴的で、このバンド絶対売れる!、とプロデューサー気取りでおすすめしていました。(笑)そのSaoriさんの処女作が「ふたご」です。

ふたご

ふたご

 

彼は私の人生の破壊者であり想造者だった。
異彩の少年に導かれた少女。その苦悩の先に見つけた確かな光。

執筆に5年の月日を費やした、SEKAI NO OWARI Saoriによる初小説、ついに刊行!

【著者紹介】
藤崎彩織SEKAI NO OWARI
SEKAI NO OWARIでピアノ演奏とライブ演出を担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。雑誌「文學界」でエッセイ「読書間奏文」を連載しており、その文筆活動にも注目が集まっている。

――

ふたごのようだと思っている。
彼は私のことをそんな風に言うけれど、私は全然そんな風には思わない。

確かに、私は人生の大半を彼のそばで過ごしてきた。晴れた日も雨の日も、健やかな日も病める日も、富めるときも貧しきときも、確かに、私は彼のそばにいた。
けれどもその大半は、メチャクチャに振り回された記憶ばかりだ。
(本文より)

 

 まず、読んでみた感想を率直に言えば、すごく良かったです。今年のベスト10に入るぐらい良かったです。芥川賞候補に入ってもいいぐらいです。藤崎さんは、文學界で「読書間奏文」というエッセイを書いていて、初めて読んだ時に「すごく文章の上手い人だ」という印象がとても強く今回の小説もすごく楽しみにしていたのですが、エッセイ以上に美しいな文章が綴られていました。

 

⇒2017/12/20追記 直木賞候補になってみたいですね!芥川賞系統だと思っていただけに恥ずかしい間違いですが、ノミネートされるだろうと信じていました!

 

アーティストとして活躍しているというのもあって、上記の内容紹介にも書かれている本文冒頭を読んでも、すごくリズム感のある文章(調べ)が綴られていて、読んでいて楽しいです。本を朗読しているような、歌を歌っているような、踊りを踊っているような、そんな不思議な気分になるのです。すごく文章のセンスがあるんだなぁと思いました。(あとがきで書くのは大変だったとありますが。)

 

「俺はお前のこと、ふたごのようだと思っているよ」と。

そう、まるで「よう、兄弟、分かるだろ?」のニュアンスで。

私は全然そんな風には思わない……。

それなのに、彼がその言葉を口にするときのあの瞳に、誰かに何かを伝えようとするとき、少し斜視になるあの瞳に見つめられると、私は決まって、悪い魔法にかかったみたいに、こくんと頷いてしまうのだ。

まるで「おう、兄弟、分かるよ、当たり前だろう?」のニュアンスで。

 

文中のこの記載でまず、心が持っていかれました。

 

 

 登場人物は「月島」と「なっちゃん」です。月島となっちゃんとの出会いから、バンドとしてメジャーデビューするまでが描かれた、自伝的な小説です。もちろんのことですが、「月島」=Fukase、「なっちゃん」=Saoriです。また後編では「ぐちりん」=Nakajin、「ラジオ」=DJ LOVEも登場します。

前述しましたが、わりと初期のころからライブに行ったりしているので、小説を読んでいると、頭の中にメンバーの顔が浮かんできてしまいます。最近のではなく、「幻の命」のころの、まだ黒髪のSaoriやちょっと怖い雰囲気のあるFukaseが。

 

小説の中では、月島との関わり方で揺れ動くなっちゃんの内側や月島がADHDを発症して精神病棟へ入院するエピソードなども克明に描かれています。自伝的な小説だからこそ、どこまでがドキュメントでどこからがフィクションなのか、その境界線が曖昧になってしまうのが怖くもあり美しくもあります。

熱心なファンの中には、FukaseとSaoriが付き合っていると信じてやまない人々もいましたし、Fukaseが精神病院に入院していたというのはWikipediaにも載っている有名なエピソードです。それを知っているからこそ、余計になっちゃんが月島へ恋心を抱いていたように、SaoriもFukaseに恋心を抱いたいる時期があったのか、錯乱状態のFukaseがSaoriにカッターナイフを突きつけたのか、など色々勘繰ってしまうのです。

 

フィクションの壁をすり抜けて、実在する人物の内面に入り込んで、その人の心を裸にしているような感覚。自分がいけないことをしているような、読んではいけない私物の日記を読んでいるような感覚になってしまう、ムズムズしてしまうので、自伝的小説は読みたいけど読みたくないのです。ただ、読みたくないのに読んでしまうのです。

 

このSaoriのFukaseのそしてセカオワの結成が描かれた自伝的小説は、「ふたご」という題名ですが、文中にはあまり「ふたご」という言葉は出てこなかった印象があります。また、性格も全く違い、常に反発や喧嘩し合っている月島となっちゃんの姿は、一見ふたごに見えません。むしろ水と油のよう。月島が表ならなっちゃんは裏、月島が裏ならなっちゃんが表なのです。しかし、そんな反発や喧嘩の絶えない中でも、なぜかお互いが惹かれあっていく。そして運命共同体のような、表裏一体のような存在に。

月島となっちゃんの人生の浮き沈みも、呼応するようにまるで反対に訪れます。なっちゃんの頑張り時には月島絶望のど真ん中に。そして、月島が立ち直り調子がよくなると今度はなっちゃんどん底の気分に追いやられる。主人公の二人はらせんを描くように、サインとコサインのように、不思議な旋律のように、浮き沈みを繰り返し、前へと進んでいったように感じました。

 

次はアンサーソングではないですけど、月島視点での「ふたご」を読んでみたいと思いました。「冷静と情熱のあいだ」のように。

 

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)

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冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

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紗倉まなさんであったり、尾崎世界観さんであったり、最近違うメディア媒体で活動されていた方が本を出される機会が増えました。賛否両論はありますが、僕はもっともっと活発になっていいと思っています。皆さん、独特の体験や観念を持っている方々ですし、表現する媒体が異なるだけで、表現する、ということに変わりはありませんので。

読んで早々気が早いですが、藤崎さんの2作目、そしてエッセイの文庫化を早くも期待してしまう、そんな素晴らしい作品でした。