読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

一月とクラフトビールと本の話

もう1月も終わろうとしているのですが、年末年始休みが長かったせいでいまだに休みボケをしています。年始から、北海道神宮に初詣(親戚づきあいを避けるために何をお願いするでもなく参拝した)に行き、今年はここ10年で最高の雪質と言われているニセコスノーボードにいき、東京にいき、トマムに行き、インフルエンザになり、とめまぐるしい1ヶ月でした。

そう、インフルエンザにかかりまして、大変辛い一日だったのですが、薬を飲めば途端によくなり、ただただ仕事初めにもかかわらず、有給にめかしこんで夜更かしでモンハンワールドをやり続けるという始末。それで体調がだんだんよくなるのだから難儀なものですね……。今作のモンハンは10年ぶりぐらいにプレイステーション系で出るということでとても楽しみにしていて、当時中学生から高校生だった僕が2,000時間も費やしたゲームの最新作なのだから、インフルエンザを気にしている暇などなく、3日で40時間ぐらいプレイしたのでございました。

 

1月の半ばに東京に行った時は、初台にあるfuzkueという読書喫茶にいってきました。新宿駅から京王新線にのって一駅のところにある初台は、駅を出ると、いわゆる「地元の駅前商店街通り」になっていて、山手線も一駅外側に出ると、街並みもこんなに変わる、東京の変わり早さをまた一つ味わえました。東京は広い。

fuzkueは読書専門のカフェで、注文・お会計以外は基本的に私語禁止、読書人による読書のための喫茶店。料金形態が面白く、飲食代のほかに利用料が取られるのだが、飲食すればするほど、つまり長居すればするほど、利用料は少なくなり最終的にゼロになるシステム。30分でも3時間でも、だいたい2,000円かかる仕組みになっていて、店主の「どうせ同じぐらいのお金払うんだったら、どんどん長居して本読んでってよ」という意気込みが聴こえるようでした。御多分に洩れず、僕も結局4時間ぐらいずっと本を読んでしまいました。良い東京出張。

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本の話。2018年の読書は「(仮)ヴィラ・アーク設計趣旨 -VILLA ARC(tentative)」から始まりました。風変わりなタイトルですが、内容は館もののミステリ。ただし作者の家原英生さんは一級建築士で、館ものミステリも、一般的な「館を利用した殺人のトリック」よりも「館がそのような設計になっている理由」、つまり設計趣旨に重きを置いた作品になっているところが面白かったです。著者略歴にグッドデザイン賞江戸川乱歩賞最終候補が並ぶ違和感から楽しめる作品になっていました。

 

 

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そこからアイスランドミステリへと読書の道は続きます。昨年「湖の男」が話題になった、アーナルデュル・インドリダソンのエーレンデュル警部シリーズの舞台、アイスランド。日本語になっているアイスランドミステリはそんなに多くなくて、今回読んだラグナル・ヨナソンの「雪盲」やヴィクトル・アルナル・インゴウルフソンの「フラテイの暗号」の他には、イルサ・シグルザルドッティルの「魔女遊戯」が挙げられます。(現在未読・積読アイスランドは夏でも平均気温は10度前半ぐらいと一年中涼しい気候も相まって、もの悲しさの残る物語が多く、文章も感情よりも事実を語っているように感じられるのですが、北海道に住んでいるせいか、僕にとってはその物悲しさが心地よく感じ、どハマりしています。いつかアイスランドにいってやるんだ、と心に秘めてTRANSITのアイスランド号(バックナンバー)を買いました。

ちなみに、アイスランド人には苗字がないらしく、ファーストネーム+父親のファーストネーム+ソン(=son、男の場合)orドッティル(=daughter、女の場合)となり、例えばイルサ・シグルザルドッティルの父親は、おそらくシグルザル・なんとかソンになっているはずであり、これもまた面白いですよねぇ。

 

フラテイの暗号 (創元推理文庫)

フラテイの暗号 (創元推理文庫)

 

 

雪盲?SNOW BLIND?

雪盲?SNOW BLIND?

 

 

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自分の中でクラフトビール元年と銘打って、今年は古本とビールのアダノンキやbeer seller sapporoに通い始めました。ある時アダノンキでミステリ談義になったときに、自分のなかで好きな作品傾向を再認識する機会がありました。純文学もSFもエンターテイメントも好きだが何よりミステリが好き。そこまでは自明だったのだけれども、今回はその先。結果、僕はハードボイルドも好きだが、コージーミステリ・日常の謎がもっと好き。大長編よりは、短編集または短編連作の長編のそれが好きだとわかり、そちらのほうへ食指を進める傾向にあるみたいです。昨年末に読んだ「Y駅発深夜バス」や「サーチライトと誘蛾灯」も最高でしたし、今月読んだ「叫びと祈り」(梓崎優)や「七つの海を照らす星」(七河迦南)、「人魚と金魚鉢」(市井豊)しかり、どの作品もべらぼうに面白かったです。東京創元社に感謝。

 

 

叫びと祈り

叫びと祈り

 

  

  

人魚と金魚鉢 (創元推理文庫)

人魚と金魚鉢 (創元推理文庫)

 

 

 

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直近で読んだものが「僕と彼女の左手」(辻堂ゆめ)と「さよなら僕らのスツールハウス」(岡崎琢磨)と「高架線」(滝口悠生)の3作。辻堂さんはデビュー作から読み続けている作家で、心理学的要素を踏まえたストーリー重視のミステリが多いイメージです。最新作の「僕と彼女の左手」もその流れを汲んでいる作品だと感じました。ちなみに辻堂さん、ほとんど同い年なのですが、普段はIT関係の会社で働きながら執筆活動をしているらしく、執筆ペースも決して遅くはないので、本業と副業の二足の草鞋を履く生活スタイルもかっこいいですね。

岡崎琢磨さんは「珈琲店タレーランの事件簿」でのデビューが僕の中でいまだに衝撃に残っている作家でして。「さよなら僕らのスツールハウス」はシェアハウスを舞台にした青春ミステリで、単なるミステリだけではなく住人の人間性を見えてくるんですね。 

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

 

さよなら僕らのスツールハウス (角川書店単行本)

さよなら僕らのスツールハウス (角川書店単行本)

 

 

 

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そして、「高架線」の話。普段いわゆる純文学作家の本をあまり読まないのだけれど、急に読みたくなることがあって、「高架線」は表紙に目を引かれて、そしてあらすじの、年季の入ったアパートを中心に描かれていく物語という、物の思念的なところに惹かれて買って読むことにしたのですけれど、読んだ後、買って間違いない本だったと思えるようなとても良い本でした。

先述した「さよなら僕らのスツールハウス」と「高架線」を同じタイミングで読んだ時、幹は全く違うのですけれど、両小説とも集合住宅を中心に、住人の移り変わりを描き、その住宅がなくなるところで物語が終わっていて、勝手に広がりを感じていたり。まったく関係のない小説が偶然繋がる瞬間があるから本を読むのは面白いと思う訳です。

「 高架線」はうまく練られたある種のミステリだというレビューも見ましたけれど、僕としてはむしろ練らずにただただ書き続けた結果このような顛末に落ち着いた、みたいな文章と自由の広がりを感じられるのびのびとした小説のように感じられました。いつか近いうちにこの本は読み直して、また新しい発見をするのだろうと思います。動いていないのに、常に動き続けていて、文は確かに切れているのに、永遠に続いているような繋がりを感じられるような不思議な心地を味わえる小説でしたし、この本に出会えただけで2018年は最高だったと思える一冊でした。

 

高架線

高架線

 

 

滝口悠生、恐るべし。今月はこの一言に、尽きますね。おわり。