読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

最近の読書 逸木裕「星空の16進数」、辻堂ゆめ「片想い探偵 追掛日菜子」

久しぶりの投稿です。引越し準備でばたばたしていました。最近、国内より海外ミステリを読むことが多くなっていて、国内ミステリは気になる新刊を追う形になっています。さらに、小説以外にも読まなければならない専門書なども多く、買ったはいいけど読めていないものを多く積み上がってしまって、読書時間を十分に設けられず若干やきもきしています。ただ、アニメとか漫画も並行して読んでいるせいでもあるんですけど…。笑

 

最近買った本はこんな感じです。

・辻堂ゆめ「片想い探偵 追掛日菜子」(幻冬舎) →既読

・逸木裕「星空の16進数」(KADOKAWA) →既読

似鳥鶏「名探偵誕生」(実業之日本社) →未読

ジョー・イデ「IQ」(早川書房) →未読

・木元哉多「閻魔堂沙羅の推理奇譚 負け犬たちの密室」(講談社タイガ) →既読

・F「真夜中乙女戦争」(KADOKAWA) →読書中

・ピーター・スワンソン「そしてミランダを殺す」(東京創元社) →既読

・ロバート・ロプレスティ「日曜の午後はミステリ作家とお茶を」 →既読

・オムニバス「The Best Mistery 2018」(講談社) →読書中

・芦沢央「火のないところに煙は」 →買ったばかり

高橋久美子「いっぴき」 →買ったばかり

連城三紀彦連城三紀彦傑作集1 六花の印」 →買ったばかり

 

ちなみにアニメはPrime Video配信終了になった「宇宙よりも遠い場所」を夢中で見てしまいました。大人ながらに各話涙ながらに見ていました。自分のなかでもかなり印象にのこったアニメでした。漫画は、「川柳少女」「まったく最近の探偵ときたら」「ib〜インスタントバレット〜」「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦」「大家さんと僕」あたりをぐわあああと読みました。「星野、目をつぶって。」と「僕らはみんな河合荘」、「恋は雨上がりのように」と大好きな作品が次々と完結してしまったのは嬉しくもあり、寂しくもありというところ。現在連載作品で読んでいるのは「かくしごと」と「BEASTARS」、「空電ノイズの姫君」、「ゆるキャン△」、「アルテ」、「第七女子会彷徨」、「バーナード嬢曰く。」とこんなところです。

 

さて、逸木裕さんの「星空の16進数」、これでもかと楽しみにしていました。一作目の「虹を待つ彼女」から発売と同時に読ませてもらっています。2作目の感想を書いたのがちょうど一年前ぐらいです。

 

masahirom0504.hatenablog.com

 

逸木さんの小説の主人公は高校生ぐらいの女の子が多く、今作も高校には通っていないものの同年代の女性が主人公です。ただ、過去2作は屋上から物語が始まっていますが、今回は違いました。(笑) 装画はloundrawさん、とても綺麗な表紙絵です。

 

星空の16進数 (角川書店単行本)

星空の16進数 (角川書店単行本)

 

(Amazon 内容紹介より引用)

 私を誘拐したあの人に、もう一度だけ会いたい。色鮮やかな青春ミステリ。

ウェブデザイナーとして働く17歳の藍葉は、”混沌とした色彩の壁”の前に立つ夢をよく見る。それは当時6歳だった自分が誘拐されたときに見た、おぼろげな記憶。あの色彩の壁は、いったい何だったのだろうか――その謎は、いつも藍葉の中にくすぶっていた。ある日、届け物を依頼されたという私立探偵・みどりが現れ、「以前は、大変なご迷惑をおかけしました」というメッセージと100万円を渡される。かつての誘拐事件しか心当たりのない藍葉は、みどりに誘拐事件の犯人・朱里の捜索を依頼する。当時、誘拐事件はわずか2時間で解決されていた。藍葉の思い詰めた様子と自身の好奇心からみどりは朱里を捜し始め、藍葉は”色彩に満ちた部屋”の再現を試みる。己の”個性”と向き合う藍葉と、朱里の数奇な人生を辿っていくみどりはやがて、誘拐事件の隠された真相に近づいていくが――。

 

少女時代に誘拐に会った女の子が誘拐犯を探す物語、というと最近「誘拐肯定じゃないか」というナナメ上の批判から放送取りやめになった「幸色のワンルーム」を思い出しますが、この作品は誘拐を肯定しているわけではありません。不遇の少女時代に発生した誘拐事件の中で、色彩感覚に優れた主人公が、誘拐された時の記憶に残っている色のついた部屋のことをどうにかして突き止めたい、色彩の共感覚を追い求めることがこの物語の主眼のように思えます。

 

ぼく自身、美術に詳しいわけでもないですし、デザイナーのような仕事をしたこともないですが、配色に優れたインテリアにはわくわくしますよね。モノトーンで決めた近未来感漂う機能美しかり、ヴィンテージ感溢れる名作家具の中でバランスよく散りばめられたスカンディナビアンテイストのお部屋であったり。 


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文中には、RGB値を16進トリプレット表記したウェブカラーが時折顔を出します。白は#FFFFFF、みたいなやつです。スタイルシートで遊んでいた人には馴染み深い表現方法ですが、そうでない人にとってはなかなかはてなマークですよね。0から9までの十種類の文字で表現するのが10進数、それにA,B,C,D,E,Fの6種類を加えた0からFまでの十六種類の文字で表現するのが16進数です。16進数にすることで約16百万の色を6桁で表現することができるんです。タイトルの16進数とはこのことですね。

 

藍葉の生活は星のない星空のようにモノトーンだったのだと思います。父親は不明、母親はシングルマザーの生活に耐えられず頻繁にネグレクトするようになるなど。クラスメイトと馴染めず高校を辞め、母親に距離を置かれ、上から指示された仕事を淡々とこなすだけの生活。だからこそ、誘拐された時の、正面から訴えかけてくるような色鮮やかな記憶は、しっかりと目に焼き付けられていたのでしょう。

 

誘拐犯を探すという強い好奇心は、藍葉の単調な生活に少しずつ色を与えて行きます。(そしてみどりは昔のやり方を徐々に思い出していきます。)その誘拐の物語の真相、パズルのピースがカチッとはまった様相は、配色のきれいに収まったステンドグラスのようにも、真っ暗な空に光る無数の煌めきのようにも思えます。自分のウィークポイントが個性であると認識した藍葉は、もう迷わずに生きていけるのでしょう。逸木さんの書く小説は、ミステリだけではなく、主人公の成長が描かれていて、それがまたページをめくる手を止めない一つの理由かもしれません。

  

物語の最後に、札幌が出てきたのも個人的にはとても嬉しかったです。時計台(今は改装工事中ですが)や北海道庁の赤レンガのコントラストなんて気にしたことありませんでしたけど笑 これからは#CD5E3C, #7EBEAB, #3A5B52を感じながら通勤しようと思います。

 

 

もう一つは 辻堂ゆめさんの「片想い探偵 追掛日菜子」です。辻堂さんは、(たしか)同い年ということもあり、もうこんなに作品を出してるなんてすごいなぁと思いながら、デビュー作から即買いして読み続けている作家の一人です。ただ今回の作品の主人公は辻堂さんの作品史上ダントツにぶっ飛んだキャラです。

 

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

 

 (Amazon 内容紹介より引用)

追掛日菜子は舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり脅迫されたりと、毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件解決の糸口を見つけ出すが――。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。

  

大好きだけど近づき過ぎず、遠目から見守って応援し、お金や時間を捧げたくなる対象、彼女たちはそれを「推し」と呼びます。

主人公の日菜子は、そんな「推し」を推しすぎるストーキング体質という強い個性の持ち主。そして「推し」が巻き込まれた事件を、盗聴やSNS、不法侵入など「いや、もうアウトでしょ!」という手法を使って解決していくキャラミステリです。

ただし、さすがはこのミス出身の辻堂さん、ぶっとんだキャラだけではなく、綿密に設計されたミステリもピカイチです。

 

実は、この小説は、一般に世に発売される前に、最終ゲラの形で読ませていただくことができました。貴重な体験です。まるで編集者のような気持ちで「わき腹に刺さっただけで失血死(しかもほぼ即死)するのか」や「アウトドアナイフはおそらくMoraknivがメジャーだと思うけど小道具のナイフと似ることなんてあるのか」など、色々勘ぐってしまったのはここだけの秘密です。


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 この小説には、俳優や子役などいろんな日菜子の「推し」が出てきます。ぼくは完全に日菜子に翻弄されるお兄ちゃんの気分で読んでいました。自分にも「推し」がいるよ!って人はきっと日菜子の気持ちになりながら共感すること間違いなしです。

 

実はこれ、全部辻堂さんの体験談なんじゃ、と作家の人間性すら疑われかねないほど暴走気味な日菜子の片想い探偵っぷりをとくとご覧あれ!ということで、「推し」がいる方もそうでない方も是非読んでみてください!

 

今回はこの辺で。