読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

戦う者の歌が聞こえるか? ーー市川憂人「グラスバードは還らない」

f:id:masahirom0504:20180914192758j:plain

 

今回は、市川憂人さんの「グラスバードは還らない」(東京創元社)を読みました。

 

グラスバードは還らない 〈マリア&漣〉シリーズ

グラスバードは還らない 〈マリア&漣〉シリーズ

 

(Amazon 内容紹介より引用)

マリアと漣は、大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、得意取引先に不動産王ヒュー・サンドフォードがいることを掴む。彼にはサンドフォードタワー最上階の邸宅で、秘蔵の硝子鳥(グラスバード)や希少動物を飼っているという噂があった。捜査打ち切りの命令を無視してタワーを訪れた二人だったが、あろうことかタワー内の爆破テロに巻き込まれてしまう! 同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の社員とその関係者四人は、知らぬ間に拘束され、窓のない迷宮に閉じ込められたことに気づく。傍らには、どこからか紛れ込んだ硝子鳥もいた。「答えはお前たちが知っているはずだ」というヒューの伝言に怯える中、突然壁が透明になり、血溜まりに横たわる社員の姿が……。鮎川哲也賞受賞作家が贈る、本格ミステリシリーズ第3弾!

 

市川さんの作品は鮎川哲也賞を受賞した「ジェリーフィッシュは凍らない」を読んで以来、その本格ミステリの完成度の高さと客観視に努めた静謐な文体にハマり、新作が出ては即買い・即読みをしている作家の一人です。今回の「グラスバードは還らない」もKindle版発売と同時に即DLしました。

 

今作はマリアと漣の登場ページ数が全二作よりも控えめのように感じましたが、洋画顔負けのマリアのアクションシーンはパワーアップしています!必見!

 

もちろん、本格ミステリも忘れてはいけません。

 

僕もそれなりにミステリを読んでいるので、「窓のない迷宮」の謎や「社員は誰に殺されたのか」などは、読みながらきっとこうだろうなと、解明することができました。

 

本文中にガラスの製造会社の話、特に半導体や負の屈折率を持つ電磁メタマテリアルの話も出てきていました。条件提示が親切だし今回の構造や謎の解明は楽勝!と思って読んでいましたが、さらに読み進めていくと、それは物語の核心である大きな謎をささえる、些細な、小さな謎の一つでしかないのだということに気づかされます。

 

そうです。本タイトルに使われている「グラスバード(硝子鳥)」の謎です。

 

小説の70%ぐらいでこのグラスバードの謎に対する回答がマリアから告げられます。僕にとっては、思わず「えっ」と言いたくなるような、突飛な回答でした。

 

しかし、ここからの30%がすごかったです。作者の圧倒的筆力によって、その「えっ」が突飛ではないと納得させられてしまいます。完全にねじ伏せられました。謎の一番根幹を提示されてもなお、ページをめくる手を止めさせてはくれませんでした。Kindleですが。

 

そして謎を解明した後もただでは読み終われせてはくれません。ラストがとてもよかったです。僕はアーナルデュル・インドリダソンのエーレンデュル警部シリーズが好きなのですが、その美しく悲しいラストはそれを思い出させてくれました。読み終えた時、タイトルの意味がより味わい深いものになることは間違いありません。

 

前二作を読んだ人向けの小ネタも挟まれており、市川さん、もうお腹いっぱいですよ。もちろん今作から読んでも十分楽しめます。是非読んでみてください。