これは単なる少年少女の冒険活劇ではない ーー 岡崎琢磨「夏を取り戻す」
これは、もうすぐ21世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子どもたちの闘いの物語です。――不可能状況から煙のように消え去ってみせる子どもたちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出と思われた子どもたちの連続失踪事件は、次第に地域全体を巻き込む大事件となっていった! いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の傑作長編。ミステリ・フロンティア100冊刊行記念特別書き下ろし、遂に刊行!
東京創元社の新進気鋭作家を押し出すレーベル、ミステリ・フロンティアの記念すべき100冊目の作品、というかもう100冊なんですね。早い。ミステリ・フロンティアの作品も結構読んでます。「アヒルと鴨のコインロッカー」「夢見る黄金地球儀」「折れた竜骨」「Y駅発夜行バス」「サーチライトと誘蛾灯」など、面白いミステリ作品がわんさかあります。
そのレーベルの100冊目の節目として岡崎さんが指名されたそうで。いやー、相当なプレッシャーだったんじゃないでしょうか、自分だったら断ってしまいそうです。それで上梓されたのが「夏を取り戻す」という作品です。簡潔でいいタイトルですよね、夏を取り戻す。失った夏を取り戻すでも、過ぎ去った夏を取り戻すでもなくて、夏を取り戻す。
「夏を取り戻す」はその100冊目にふさわしく、とてもうまくまとまっている作品だと思いました。 作品紹介に書いてるように、児童連続失踪事件の正体は、子供達によるトリックな訳なのですが、このトリックが等身大のトリックであるという点がとてもおもしろいです。現実問題として、こんなトリックを子供達が思いつくわけがない、と思う一方で、もしかしたらいまの子供たちなら思いつくのかもしれないと思わせる絶妙なレベル感のトリック、そしてそのトリックの瓦解の仕方がいかにも子供らしくてクスッとします。
そして子供達の思惑とそれぞれの思惑が、物語をより深みのあるものに変えているような気がしました。物語の展開はオーソドックスで予測がつくいっぽう、小手先のトリックだけの物語ではない、芯のある物語が書かれている、そんな作品でした。
単なるジュブナイルものでもなく、記者ものでもなく、いうなれば地域ミステリ、というのは、今までありそうでなかったような気がしますね。とっても面白かったです。