読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

【2018年版】4誌ミステリランキングを総括してみました。

早いもので、2018年もあと半月で終わりですね。

平成最後の年末なんていうととても貴重なもののように感じますが、今年も例年通り、ミステリ本の読み納めに向けて、読み耽っているところです。

 

さて、この時期にはミステリ好きにはたまらないイベントがあります。そうです。各種ミステリ・ランキングの発表ですね。総合本では「ダ・ヴィンチ」や「本の雑誌」のランキングなどありますが、ミステリといえば、ハヤカワミステリマガジンの「ミステリが読みたい!」、宝島社の「このミステリーがすごい!」、原書房の「本格ミステリ

ベスト10」、そして文藝春秋の「週刊文春ミステリベスト10」の4誌が有名です。

 

ミステリマガジン 2019年 01 月号 [雑誌]
 
このミステリーがすごい! 2019年版

このミステリーがすごい! 2019年版

 
2019本格ミステリ・ベスト10

2019本格ミステリ・ベスト10

 
週刊文春 2018年 12/13 号 [雑誌]

週刊文春 2018年 12/13 号 [雑誌]

 

 

 

 

 

ということで、今年も4誌ミステリランキングを総括してみました。

 

【国内編】ミステリランキング

 

まずは国内編。

 

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4誌掲載で青色、3誌掲載で赤色、2誌掲載で緑色、単独掲載で黒色表記としています。

 

各誌とも、回答対象者にランキングの形でアンケートを行い、集計した点数が高い順にランキングが決定していますが、ハヤカワミステリマガジンの「ミステリが読みたい」だけは発行日が早い関係で対象期間が2017年10月1日〜2018年9月30日に発行された書籍が対象になっています。(残りの3誌は2017年11月1日〜2018年10月30日発行の書籍が対象)

そのため、「ミステリが読みたい!」に今回ランキングしている書籍のうち、「屍人荘の殺人」および「ミステリークロック」(海外版では「黒い睡蓮」)が残り3誌では昨年のランキングの対象となっています。

 

今年のミステリは一言で総括すれば「ストーリーミステリの当たり年」だったように感じます。必ずしもストーリーミステリと本格ミステリは相反するものであるとは言えませんが、本格ミステリと他誌の被らなさから、その傾向が読み取れます。

 

その数あるストーリーミステリの中でも、今年の目玉となったのが14年ぶりに刊行された原尞さんの「それまでの明日」ですね。「私が殺した少女」で直木賞を受賞したのが1989年、シリーズ第1作の「そして夜は甦る」から「それまでの明日」の5作目までに30年掛けたというのですから驚きです。しかしその分、充分に濃縮されたミステリで、読後感にどっぷり浸かれる(疲れる)のは、この方の作品ならではではないでしょうか。 

それまでの明日

それまでの明日

 

 

若竹七海さんの「錆びた滑車」も、物語が進むにつれて事件の全貌が二転も三転もする、極上のストーリーミステリです。読み終わった時に、この小説は完全に原さんの小説だと思ってしまったぐらいに、精巧に作り上げられています。物語は社会問題が描かれたり、木枯らしが吹くような展開であったりと読み進めるほど辛くなりますが、ハードボイルドとは違った体の節々の痛みや息切れに苦しむ中年女性探偵の不遇さが物語をコミカルにしてくれているような、笑っちゃいけないんだけど、クスッと失笑してしまうところがこの本の魅力なのだと思います。

錆びた滑車 (文春文庫)

錆びた滑車 (文春文庫)

 

 

深緑野分さんの「ベルリンは晴れているか」は、第二次世界大戦終戦後のドイツを舞台にした歴史ミステリであり、歴史的背景や情景描写がもの凄い。日本にもこんな小説を書ける人がいるのかと、翻訳ミステリさながらの書き筋と本の厚みに、度胆を抜かされること間違いありません。まさに今年の(特に年末年始にかけて)一気に読むべき作品です!

余談ですが、「夜と霧」、「アウシュヴィッツの図書係」「HHhH」と並べて本棚に飾っています。

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

 

東野圭吾さんの「沈黙のパレード」も、ガリレオシリーズ最新作として、本好きを大いに沸かせました。週間文春ミステリーベスト10で1位というのは出版元というのもあって作為的にも感じますが、とても面白かったです。「探偵ガリレオ」から読み直してしまいました。ただ、途中でミステリの謎が解けてしまったというところと、やはりあまりにも「容疑者Xの献身」と「聖女の救済」が凄すぎたところが、僕の中で目立ってしまいました。

沈黙のパレード

沈黙のパレード

 

 

 そして、僕はホラーが苦手なので、せっかくの4誌掲載である三津田さんの「碆霊の如き祀るもの」は未読です。芦沢さんの「火のないところに煙は」は読みましたが、読後にすぐに記憶から抹消してしまいました、すみません。笑 

 

葉真中さんの「凍てつく太陽」は室蘭の製鉄所が舞台ということで、読みたいのですが現在未読です。また、真藤さんの「宝島」はとても面白かったですが、僕の中ではミステリの分類ではない気がしました。

 

こう見ると、本格ミステリ・ベスト10突き抜け感と週刊文春ミステリーベスト10の安定感はすごいですね。

個人的には岡崎琢磨さんの「夏を取り戻す」はもっと評価されるべきかなと思いました。物語が複雑であればあるほど重厚感は増していきますが、小さな範囲で上手にすっきりとまとまった物語もミステリの醍醐味の一つであるように思いました。

 

【海外編】ミステリーランキング 

 

お次は海外編です。

4誌ランキングは以下の形となりました。

 

 

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なんといっても、特筆すべきは「カササギ殺人事件」の4冠ですよね。小説の中で小説が書かれていて、小説と同様の事件が現実でも発生する、という二重の入れ子状態。紛失した小説の結論が、現実の殺人事件の鍵を握る、というワクワクさせる王道の展開。そして、心からミステリ好きな作者が小説の節々に忍ばせた数多のパスティーシュ。とお腹いっぱいになるほど、ミステリのあるあるがこれでもかと詰まっています。作者はどれだけミステリを読み込んだのか、感想ですらもなんと書けば良いものかと、書評者たちを一番悩ませたミステリだと思います。クリスティをもう一度読み込んだあとに読み返せば、新しい発見が見つかる、宝探しのようなミステリで、納得の一位です。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

 

 

「そしてミランダを殺す」は、打って変わって完全なるストーリーミステリ。主要な登場人物は少ないですが、目まぐるしく変わる視点と交差する思惑で、臨場感あふれるミステリとなっていました。登場人物が少ない分、物語の展開はある程度予想できてしまうところもありますが、先入観なく読める、ミステリ好きにも、ミステリ初心者のかたにもオススメしたい一冊でした。

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

 

 

「数字を一つ思い浮かべろ」は、退職した刑事が、数奇なトリックを仕掛けて警察を挑発する犯人を追い詰める、アメリカの王道警察ミステリで、著者の処女作が今回翻訳されました。アメリカミステリに描かれる「内部が対立して部下が無能、トリックの方向性に気づきそうなはずが、ありえなさそうなものから潰していく」警察あるあるのせいで、紙面が厚くなっているところが気になりますが、文章の読みやすさと謎の解き明かし方見たさについつい、ページを読み進めてしまいます。文藝春秋は「乗客ナンバー23の消失」よりも、こちらをもっと力を入れるべきではと思ってしまいました。笑

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

 

 

4誌掲載の、陸さんの「元年春之祭」は昨年、陳さんの「13・87」が話題になったにも関わらず、まだ読んでいません。すみません。しかし、最近台湾・中国ミステリがアツイので、絶対面白い、はずです。すぐ読みます。すいません。笑

 

その他の作品は、話題性の割には、という作品が正直多かったかのように思えました。売り出し方の問題なんでしょうか。昨年のほうが盛り上がっていたような。IQも僕の中ではあんまりヒットしませんでした。

 

そのなかで、目を引いたのが行舟文化の「あやかしの裏通り」ですよね。

そんな出版社聞いたことないぞ、と最初思ったのですが、それもそのはずでした。中国上海の出身で日本で翻訳業・執筆業をされているご夫婦(筆名は「張舟」)がされているインディーズの出版社で、日本での刊行物は「あやかしの裏通り」の一冊のみ(!?)なのです。ミステリに傾倒するお二人が、この本を日本の人々にも読んでほしい、でも大手出版社は出してくれない(早川から今年の10月に16年ぶりの復刊として「第四の扉」が刊行されてますので僕の妄想です)なら、私たちで刊行してしまえばいいじゃないか!という感じでしょうか。

フランス出身の作家であるため主人公がスマートであることに加え、クリスティ好きもあって文章はイギリス流に端的な描写がなされる、まさにいいとこ取り(?)な小説です。ハヤカワも行舟も訳者は平岡敦さんです。とても面白かった。

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

 

 

 

 来年はどんなミステリが読めるのか楽しみです。

最後に、2017年度版のミステリランキングを参考までに貼っておきます。

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