読書ノート

札幌在住の26歳。読書が好きで読書感想ブログをちまちま書いています。特に推理小説が好きですが、どんなジャンルの本でも読むように心がけています。おすすめの本は通年募集中です。

2018年読んでよかった本10冊

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自分のNoteからの転載ですが、2018年中に読んだ本の中で心に残った10冊の本を紹介できればと思っていますので、どうかお付き合いください。

 

 

 

多和田葉子「地球にちりばめられて」

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

 

最初に紹介するのは多和田葉子さんの「地球にちりばめられて」です。「献灯使」(”The Emissary”)で全米図書賞翻訳文学部門を受賞されたことが記憶に新しい多和田さんは、ドイツを拠点に世界中で活躍されている作家です。 ドイツでの生活体験を綴ったエッセイ「言葉と歩く日記」がたまらなく好きで、「地球にちりばめられて」においても、言葉が重要なキーワードの一つとなります。

 

留学中に故郷の島国が消滅し帰る場所を失った留学生Hirukoは、大陸を移ろいながら形成されていった、ノルウェー語とデンマーク語とフィンランド語を母体とした永遠に完成しない液体言語「パンスカ」をテレビで披露します。 テレビ越しに見たHirukoに興味を持ったコペンハーゲン大学言語学を専攻している学生ナヌークとともに、彼女の失われた母国語者を探すべく旅に出ます。

 

彼らは、道中同志を交えながら、言語とは何か、アイデンティティとは何かを膨らませていきます。僕たちは、無意識に、人種や宗教、そして言語で他者をラベリングして壁を作ってしまう生き物ですが、言語は、言葉は、元をたどればただの音に過ぎません。完璧ではなくても、言語を学び、言葉を音として発することで、他者と通じ、そして新たな自我が生まれます。地球に散りばめられた僕たちは◯◯人である前に地球人である、ということを気づかせてくれる、そんな一冊です。

 

 

ジョー・ネスボ「真夜中の太陽」  

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

 

 

お次は、北欧ミステリ作家であるジョー・ネスボの「真夜中の太陽」を。2018年のミステリランキングには話題になりませんでしたが、個人的にとても好きな作品です。窃盗の疑いで組織に襲われている主人公が、オスロから遠く離れた北の地を舞台に、組織の手からうまく逃れる方法を探すというのが大枠の一風変わったミステリ。

 

信念と暴力、そして執着という普遍的なテーマをの中で、北の大地で揺れ動く主人公の心はなんとも叙情的であり、村上春樹さんを想起させました。特に物語の方向性は違えど、同じテーマを扱う「ねじまき鳥クロニクル」を。

 

各巻完結で、この本から読んでも十分物語は楽しめますが、前作「その雪と血を」との対比を味わうのもまた一興です。「ねじまき」と比べてかなり文量も少なく非常に読みやすいですよ。

 

⒊ 深緑野分「ベルリンは晴れているか」 

ベルリンは晴れているか

ベルリンは晴れているか

 

 ヨーロッパが舞台の小説が続きます。深緑野分さんは、いい意味で、日本人作家らしくない小説家です。「オーブランの少女」や「戦場のコックたち」の筆致は、完全に海外小説の翻訳のそれで、「ベルリンは晴れているか」もその心地よい感覚を味わせてくれます。

 

舞台は、第二次世界大戦終戦後、ベルリン宣言により諸外国の統治下に置かれたドイツ、ベルリン。アメリカ軍の兵員食堂で働くアーリア人の少女アウグステが、恩師クリストフの中毒死の真相を求めながら、恩師の甥に伝える旅に出ることとなります。迫害や対立、ホロコーストの跡を辿りながら、辿りついた真相は?と、ミステリとしては「奇妙な味」的な少しもやもやしたところも残りましたが、幸せとは何かを考えさせられる、ミステリを超える物語と出会えました。

 

林哲夫/能邨陽子「本の虫の本」  

本の虫の本

本の虫の本

 

 

 本好きというのはついついこういう本に惹かれてしまう生き物なのです。本好きが本好きのために書いた、「本あるある」を一冊の本にまとめたのがこの「本の虫の本」です。

 

例えば「全部読んだんですか?」では、「本をたくさん持っている人に決してしてはいけない質問です。」という一文から物語が始まります。 本好きなら共感できるはずです、あの永遠に底が見えない積ん読の山を。僕も1冊読んだら2冊買っていい、という信念のもと山積みの積読本が部屋を狭くしてしまっています。「全部読みました」と答えられる日は永遠にこないのです。

 

⒌ 近藤哲朗「ビジネスモデル2.0図鑑」

ビジネスモデル2.0図鑑 (中経出版)

ビジネスモデル2.0図鑑 (中経出版)

 

  視覚的に新しいビジネスモデルを学ぶことのできる「ビジネスモデル2.0図鑑」は、ビジネス視点でもデザイン視点としても楽しんで読める、今年読んでよかった本の一つでした。ビジネスを考えるときは「ヒト・モノ・カネ」の動きを中心に理解するのが良いのですが、それが1ページに一目瞭然に示されている、まさに集合知のような本でした。

 

ビジネスに興味がない人でも「へぇ、こんな会社があるのか」と知れるだけでも得した気持ちになれるはずです。

 

⒍ 初谷むい「花は泡、そこにいたって会いたいよ」

 書肆侃侃房から出版された新進気鋭の大学生の等身大を読んだ短歌集です。僕は特段学術として文学を学んだ経験はない素人なので、短歌や詩をどう読んだらよいかはわかりません。ただ流れに身を任せて、読んだ一文が好きかどうか、それに尽きるような気がしています。

どんな歌集にも「わかる!」と思うものと「わからない...」と思うものの両方が存在してしまいます。小説と比べても一つの本にこんなに沢山の物語が詰まっているのですから、共感できないものがあっても仕方ないように思えます。その中でもこの歌集は「わかって」しまうものが多く、自由なリズムで飛び跳ねながら溢れてくる文字を追うのが、つい、楽しくなってしまうのです。

 

篠原健太「彼方のアストラ」

  最終巻の刊行が2018年だったので、「彼方のアストラ」も2018年に刊行された本として紹介させていただきます。2063年惑星マクパにキャンプに向かった9人を襲った謎の球体、だだ広い宇宙空間に飛ばされた彼らはもとの惑星に戻れるのか、というのが大まかなストーリーです。

 

SKET DANCE」が終わった時はかなりショックでしたが、そのあとの新連載「彼方のアストラ」はそれ以上に衝撃でした。科学・歴史・SF・ミステリ・ギャグ、全てのジャンルを網羅したかのようなストーリー、魅力あるキャラクター、無駄がなく細やかな人物設計、突飛がないようで論理性のあるオデッセイのようなSF考証、回収不能のようで隙のないふんだんに散りばめられたミステリ、そしてSKET DANCEから変わらないギャグ、何もかも最高なんです。5巻というちょうどいい長さに纏められているので1日かからずに読み終われます。是非ご一読を。

 

⒏ 原尞「それまでの明日」

それまでの明日 (早川書房)

それまでの明日 (早川書房)

 

 個人的には今年最高のミステリだった、原尞さんの「それまでの明日」はシリーズ14年ぶりの刊行であったこともあって、発売前から期待に胸を膨らませていました。シリーズ第1作の「そして夜は甦る」が1988年でしたので、30年で長編5作とかなり寡作な作家ではありますが、その分最高密度のストーリーテラーであることは間違いありません。

 

物語の主人公である渡辺探偵事務所の沢崎あてに来た身辺調査の依頼は思わぬ方向に進んでいきます。ことの真相は、ぜひ作品をご覧いただければと思うのですが、幾重にも積み重ねられた重厚な物語は、何度も読み返したくなります。この物語を読むにあたって、事前に前4作品を読み返したのちに臨んだのですが、そのハードボイルドな言動は、色褪せることなくそこに存在し続けているように感じられました。

 

 

⒐ 田中修治「破天荒フェニックス」  

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 (NewsPicks Book)

 

 昨年はナイキの歴史を綴った「SHOE DOG」が話題になりましたが、今年はオンデーズの再生を綴った「破天荒フェニックス」が良い意味でビジネス本市場を席巻したように思われます。もちろんナイキと比べると規模は小さいですが、この本は単なる企業再生の成功体験を綴った物語ではなく、あくまでも再生「まで」を綴った物語なのです。

 

そのため、買収直後の社員からの敵対や困惑、一体感の醸成の最中での内乱や裏切り、金融機関の貸し渋りなど、最初から最後のほうまで試行錯誤を繰り返し、成功し始めたところで物語は終わるという、読者としてはかなり辛い読書体験となります。しかしそれがまた面白い。どこまでがノンフィクションなのかはわかりませんが、苦労して苦労してようやく掴み取った成功に対しては、感情移入も一入ですね。

 

本谷有希子「静かに、ねぇ、静かに」

静かに、ねぇ、静かに

静かに、ねぇ、静かに

 

 最後に本谷有希子さんの最新作をご紹介。好きな作家はと聞かれると「純文学は本谷有希子さん、ミステリは米澤穂信さん」と答えます。書くジャンルは違えど、普通の人なんだけど一癖あるキャラクター、シュールでシニカルな文調、ハッピーエンドでは終わらせない読後のえぐみがこのお二人は最高なのです。

 

「静かに、ねぇ、静かに」はSNSやネットショッピングなど、最近の社会的インフラにどっぷり使っていく中年の奇妙さを描いた連作短編集で、映し鏡のような気持ち悪さが流れ込んできます。いまやネット依存は若者だけの話ではなく、世界全体がある種の感覚に麻痺し始めているようで、そんなSNSが人間の行動を定める彼らを客観的に眺めるブラックユーモアな、Kafkaesqueな群像劇は本谷さんにしか描けませんね。

 

 

 

ミステリが多めですが、純文学や短歌、ビジネス書や漫画までいろんなジャンルから10作品を紹介させていただきました。来年もまた素敵な読書体験になることを自らに期待して終わりにします。ご拝読ありがとうございました。