2016年に読んだおすすめの本15冊
こんばんは。
今年ももうすぐ終わりますね。
- 今年の読書まとめ
- 2016年おすすめの15冊
- 1.小峰元「アルキメデスは手を汚さない」(講談社文庫)
- 2.安部公房「砂の女」(新潮文庫)
- 3.深緑野分「戦場のコックたち」(東京創元社)
- 4.阿部智里「烏に単は似合わない」(文春文庫)
- 5.米澤穂信「いまさら翼といわれても」(KADOKAWA)
- 6.本谷有希子「異類婚姻譚」(講談社)
- 7.市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」(東京創元社)
- 8.ジョエル・ディケール「ハリー・クバート事件」(創元推理文庫)
- 9.小野正嗣「九年前の祈り」(講談社)
- 10.イアン・マキューアン「アムステルダム」(新潮社)
- 11.森沢昭夫「夏美のホタル」(角川文庫)
- 12.中室牧子「学力の経済学」(ディスカバー・トゥウェンティーワン)
- 13.村上春樹「国境の南、太陽の西」(講談社)
- 14.畑野智美「海の見える街」(講談社)
- 15.大崎善生「聖の青春」(KADOKAWA)
- おわりに
今年の読書まとめ
今年の読んだ本の数は201冊でした。(漫画・雑誌・仕事の参考書除く)
読書は量だとは思っていないのですが、なんとなく年間200冊ぐらいは読みたいなぁ、と思っていたので何とか達成できてよかったです。来年もいいペースで読んでいきたいなぁと思っています。
11月がゼロで12月が43冊となっていますが、iPhoneが壊れて一部バックアップできていなかったために12月に再入力しただけなので、実際には11月も12月も20数冊です。
4,5月は仕事がとっても忙しいのでほとんど読めませんでしたが、1月は大量に読んでいますね。(笑)
もうすこしコンスタントに読めるように来年は頑張ろうと思います。
2016年おすすめの15冊
さて、振り返りという意味も込めて2016年僕が読んだ本の中から面白かった15冊を紹介させていただきます。(出版・刊行が2016年ではないということをご了承ください)
1.小峰元「アルキメデスは手を汚さない」(講談社文庫)
1973年に刊行されたジュブナイルミステリで、第19回の江戸川乱歩賞を受賞した作品です。作者の小峰さんは1994年に亡くなられて作品はしばらく絶版となっていたのですが、2006年に復刊されました。僕が読んだのもその復刊版です。
(Amazon 内容紹介より引用)
「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。さらにクラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然! 大人たちも巻き込んだミステリアスな事件の真相は? 1970年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。
作家の読書道で東野圭吾さんが思い出に残っている小説だと紹介しており、ぼくも高校生の時に読んでいたらよかったなぁ、と思った作品でもあります。
時代の違いもあってか、高校生一人ひとりの主張が激しいんですよ、「いや、今の高校生だったらおとなしいから、こんなこと絶対に言わないよ!」ってことを平気でしゃべっちゃう。内容だって結構えぐい。挑発的であったり、ドライな時もあればすごく友達思いであったり。でもなんとなく今でも通じる部分があるな、っていう感じもあって。本格ミステリではなく、読み物として、もしかすると今でいうイヤミスに分類されるかもしれないけれども。
宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」と比べてみると面白いかもしれません。ソロモンの登場人物が「静的な異常」だとすると、アルキメデスは「動的な異常」だと感じました。
2.安部公房「砂の女」(新潮文庫)
こちらも1962年刊行の古い作品。安部公房の中でも最も評された作品で、第14回の読売文学賞をとっている純文学作品です。
(Amazon 内容紹介より引用)
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。
いわゆる「こんなの絶対おかしいよ!」が当たり前になっちゃう怖さ、違和感を違和感と感じさせなくなる感覚が風化していく瞬間が淡々と描かれています。作品自体は結構難しい内容ですが、比較的テンポよく物語が進んでいるため、少し易しくすれば寓話や絵本で児童文学としてもおすすめできるんじゃないかな、と思います。
3.深緑野分「戦場のコックたち」(東京創元社)
2015年8月に刊行し、その年のこのミステリーがすごい!の国内版第2位になった作品です。てっきり読んだのは昨年だと思っていたのですが、今年の1月でしたので、今年の本に。前作の短編集「オーブランの少女」で描かれる海外ミステリのようなタッチと繊細な表現で一気にファンになり、2作目がこの作品でした。
(Amazon 内容紹介より引用)
1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕らの初陣だった。特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエド、お調子者のディエゴ、調達の名人ライナスらとともに、度々戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段はおとなしいエドだった。忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件など、戦場の「日常の謎」を連作形式で描く、青春ミステリ長編。
内容紹介の通り、本作も海外ミステリ。戦争の中で遭遇したミステリを解き明かしていきます。タイトルだけみると、ノンフィクションのドキュメンタリーかな、なんて思ってしまうんですよね。(笑)
内容も戦争の渦中にいるんだけれども、あくまでも「日常の謎」のようなミステリ。北村薫さんや米澤穂信さん、加納朋子さん、若竹七海さんと同じジャンルとなるのでしょうか。
ちなみに、3作目の「分かれ道ノストラダムス」は、うってかわって日本のジュブナイルミステリでしたが、繊細で豊富な表現力は健在で、こちらも読んで損はないですよ!
4.阿部智里「烏に単は似合わない」(文春文庫)
次はファンタジーミステリ、といえば良いのでしょうか、平安時代のような世界を築き、その舞台の中で起こった事件を解決していく、松本清張賞を受賞した作品です。
(Amazon 内容紹介より引用)
人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」で、世継ぎである若宮の后選びが始まった。朝廷で激しく権力を争う大貴族四家から遣わされた四人の后候補。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれ魅力的な姫君たちが、思惑を秘め后の座を競う中、様々な事件が起こり…。
1991年生まれということで同い年の方が、21歳の時に賞を受賞したというのに驚きました。壮大な世界を作り上げるだけでもすごいのに、その中で事件が起こって解決(?)させていくという壮大な物語だと思います。
解決(?)というのは、一冊でいちおう完結することはするのですが、シリーズ連作として次を次をと読んでいくほど謎が解き明かされていく、というか、作者は2016年7月に刊行されたシリーズ5作目「玉依姫」を当初描いていたというのですから、1冊目を刊行している時点で先を見通しておられた、ということでしょうね。すごいです。
5.米澤穂信「いまさら翼といわれても」(KADOKAWA)
またまたミステリ。近年のミステリ紙上荒らし、と言っていいほどどの作品も最高に素晴らしい米澤さんの古典部シリーズの最新刊です。刊行のタイミングで「真実10メートルの手前」の時と同じく、その年のこのミステリーがすごい!には入ってきません。(笑)
(Amazon 内容紹介より引用)
『満願』『王とサーカス』の著者による、不動のベスト青春ミステリ、〈古典部〉シリーズ第6弾!
神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。
夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘――
折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは?(表題作)
時間は進むとわかっているはずなのに。
奉太郎、える、里志、摩耶花――〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。
最新作とはいっても、一番古い短編は2008年と8年前のものが収録されています。それもすごいですね。古典部シリーズの第1巻「氷菓」が刊行されたのが2001年なので、15年も古典部シリーズにはお世話になっています。(手元にあるのは、復刊後のものですが。)これからも楽しい「日常の謎」よろしくお願いします!
6.本谷有希子「異類婚姻譚」(講談社)
こんどは純文学、第154回芥川賞を受賞した作品です。後述するように、とあるきっかけから芥川賞作品を読んでみる気がおき、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」と同時期に読んだので、今年の読書まとめに入ってしまっています。(9.小野正嗣「九年前の祈り」参照)
(Amazon 内容紹介より引用)
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」――結婚4年の専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、「藁の夫」など短編3篇を収録。
「持ちつ持たれつ」のなかで、だんだん「まぁ、いっか」となっていくのはいいのか?よくないのか?見方によっては、安部公房さんの「砂の女」ともテーマがかぶってくるのかなと思いますが、こちらは「社会的不和」のなかでも「家庭的不和」のお話かなぁと。最終的に「お前のアイデンティティはそんな形で発揮されるのか」と面白おかしくも、その気づいた瞬間にくるむずむず感が表現されている作品だなぁと思いました。おおはまりしてこれ以降、僕は本谷さんの作品を漁るように貪るように読んでいます。
7.市川憂人「ジェリーフィッシュは凍らない」(東京創元社)
またまたミステリ。第26回鮎川哲也賞受賞作であり、このミステリーがすごい!2017年版の国内版第10位の作品です。
(Amazon 内容紹介より引用)
21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!
選考委員絶賛、第26回鮎川哲也賞受賞作
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー六人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……。 選考委員絶賛、精緻に描かれた本格ミステリ。
内容紹介のとおり、現代版の「そして誰もいなくなった」、綾辻行人さんの「十角館の殺人」のような内容で、いわゆるフーダニット&ハウダニットが緻密かつ丁寧に描かれています。これがデビュー作というのですから驚き。世界観は、少し前のアメリカ映画のように描かれていて、先述した深緑さんの表現の仕方とは少し違っているけど似てるところもある、という感じ。(どういう感じだ結局!)
エピローグでの伏線回収後、かならず二度読みしたくなる作品です。すごい。
8.ジョエル・ディケール「ハリー・クバート事件」(創元推理文庫)
海外ミステリです。以下の過去記事の通りですが、本当に面白かったのです。
9.小野正嗣「九年前の祈り」(講談社)
6.本谷有希子「異類婚姻譚」でも記載したとおり、こちらも芥川賞受賞作品。
こちらも過去記事があります。
こちらも本当に素晴らしい作品で、子供もいないし結婚もしていない、地元からも離れていない僕ですが、時間と空間を越えてリンクする感覚や悩みと葛藤が他人の行為で少しすっとする感覚がすごくきれいに描かれていると感じました。
10.イアン・マキューアン「アムステルダム」(新潮社)
1998年に公表された、ブッカー賞受賞作品です。イギリスで戯曲や小説を書かれているという点では、先ほどの本谷さんと同様ですが、イギリスらしさが随所でみられ、この作品も同様です。
(Amazon 内容紹介より引用)
ロンドン社交界の花形モリーが亡くなった。痴呆状態で迎えた哀れな最期だった。夫のいる身で奔放な性生活をおくった彼女の葬儀には、元恋人たちも参列。なかには英国を代表する作曲家、大新聞社の編集長、外務大臣の顔も。やがてこの三人は、モリーが遺したスキャンダラスな写真のために過酷な運命に巻き込まれてゆく。辛辣な知性で現代のモラルを痛打して喝采を浴びたブッカー賞受賞作!
作品は、みんなが愛したあのモリーがなくなった、というところから始まるのですが、(なぜか海外小説や映画には雨の中の葬式のシーンが多い気がしますね。)悲しみにあけくれるどころか、あまたのブラックユーモアへと話が点々としていきます。少々ネタバレとなりますが、葬式で始まり葬式で終わるというのもスパイスが効いていますね。気取った粘りっこい文体のなかで語られる3人のおっさんの生き様と思いがえぐられるように書かれています。2017年は「愛の続き」「贖罪」も読んでみようと思います。
11.森沢昭夫「夏美のホタル」(角川文庫)
このなかでは一番読みやすいかもしれません、ヒューマンドラマのような物語です。
(Amazon 内容紹介より引用)
写真家志望の大学生・慎吾。卒業制作間近、彼女と出かけた山里で、古びたよろず屋を見付ける。そこでひっそりと暮らす母子に温かく迎え入れられ、夏休みの間、彼らと共に過ごすことに……。心の故郷の物語。
普段、ミステリばかり読んでいるので、この後どんでん返しが起こるとか、誰か中でほくそ笑んでるやつがいると考えてしまうのですが、こちらはハートフルな物語です。(笑)
今年、有村架純さんと工藤阿須加さんで映画化もされており、第二の故郷というか心のよりどころというか、人々とのふれあいの中で生まれる温かさが綺麗描かれている作品でした。
12.中室牧子「学力の経済学」(ディスカバー・トゥウェンティーワン)
小説以外で唯一のおすすめ本となってしまいました。しかも2015年刊行です。(笑)
(Amazon 内容紹介より引用)
「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は、「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきた。そしてその知見は、「教育評論家」や「子育てに成功した親」が個人の経験から述べる主観的な意見よりも、よっぽど価値がある―むしろ、「知っておかないともったいないこと」ですらあるだろう。
本書は、「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊である。
「Zero to One」や「Hard Things」も読みましたが、こんな視点から科学するのか!と驚かされたので、こちらを選びました。データがすべてだとはもちろん言いませんが、信憑性のない精神論よりは断然データ派な僕です。まだまだ精神論で片付けられることが多く、日本社会のなかで一番メスがいれられていないといってもいい教育現場を変えたほうがいいのでは?と提起する社会的な一冊であるといってもいいと思います。
13.村上春樹「国境の南、太陽の西」(講談社)
日本の純文学(?)を席巻する村上春樹さんの長編小説の一つです。1992年に刊行されましたので、当時1歳。(笑) 正確に言えば、再読です。
今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう――たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて――。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作、待望の文庫化。
村上春樹さんの中では珍しく(?)、比較的状況が一般的の作品ですが、その中で描かれている情景描写と心理描写がとても素晴らしいです。偏りはあるけれど僕が生まれる少し前の世界を細かに描かれているので、それを学ぶという点においてもよい教材だと思います。村上作品の中ではあまり日の当たらない作品ですが、「羊をめぐる冒険」「海辺のカフカ」と合わせて僕の好きな作品です。
14.畑野智美「海の見える街」(講談社)
お次はこちら。 第34回吉川英治文学新人賞を受賞している作品で、ジャンルとしては恋愛小説でしょうか。
(Amazon 内容紹介より引用)
あらゆる恋愛は、奇跡だ。
2015年、最高の恋愛小説は、コレだ!
海の見える市立図書館で司書として働く31歳の本田。十年も片想いだった相手に失恋した七月、一年契約の職員の春香がやってきた。本に興味もなく、周囲とぶつかる彼女に振り回される日々。けれど、海の色と季節の変化とともに彼の日常も変わり始める。注目作家が繊細な筆致で描く、大人のための恋愛小説。
変わらない毎日も、愛しい。
でも、誰かと出会って変わっていく毎日も、悪くない。
海の見える市立図書館で働く4人の男女の物語。
単純な職場恋愛ではない物語。わかるんだけどもどかしい。恋愛小説は普段読まないのですが、ドロドロでもなくアツアツでもなく、でもちゃんとしっかり恋愛している、こんな小説あるのかと。たぶん2017年も読み返すんだろうなぁ、という作品でした。
15.大崎善生「聖の青春」(KADOKAWA)
さいごはこちら。今年松山ケンイチで映画化されたことでも話題のノンフィクション、ドキュメンタリー小説。知らなかったのですが、2001年に藤原竜也さんでドラマ化されていたんですね。第13回新潮学芸賞を受賞しています。
(Amazon 内容紹介より引用)
重い腎臓病を抱えつつ将棋界に入門、名人を目指し最高峰リーグ「A級」で奮闘のさなか生涯を終えた天才棋士、村山聖。名人への夢に手をかけ、果たせず倒れた“怪童”の生涯を描く。
この一つの目標に向けて頑張る力はどこからでるのかってぐらい、失敗しても失敗しても何度失敗してもまっすぐに頑張る村山聖の生涯を描いていて、もう僕は何をしているんだ、僕はもっと頑張らなきゃいけない!という気持ちにいやでもなれる文庫です。(笑)
こちらもきっと、僕がまたもう頑張れないと思ったとき、きっと読み返すであろう作品だと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
賛否はあると思いますが僕の2016年の振り返りはこんな感じです。
2017年もどんどん読んでいきたいと思います。
皆様それでは、よいお年を!
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読んだ本の管理には「読書管理ビブリア」を使っています。
小野正嗣「九年前の祈り」(講談社)を読みました。
こんにちは。
今年もあと4日ですね。
(以下、Amazon 内容紹介より引用)
三十五になるさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。希敏の父、カナダ人のフレデリックは希敏が一歳になる頃、美しい顔立ちだけを息子に残し、母子の前から姿を消してしまったのだ。何かのスイッチが入ると引きちぎられたミミズのようにのたうちまわり大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった──。
九年の時を経て重なり合う二人の女性の思い。痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。
第152回(2014年下期)の芥川賞受賞作品で、又吉直樹さんの「火花」や羽田圭介さんの「スクラップ・アンド・ビルド」が受賞する一つ前の作品です。
僕は「あなたはどのジャンルの小説が好きですか」と聞かれれば「推理小説です」と即答できるぐらい、小さいころから偏った読書しかしてこず、純文学よりはエンターテイメント性に富んだ作品が好きでした。そのため、直木賞受賞作品はおおむね読んでいる一方で、芥川賞受賞作品といえば読んだものは金原ひとみさんの「蛇にピアス」や綿矢りささんの「蹴りたい背中」ぐらい。それも気まぐれで、村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」や森敦さんの「月山」など、基本的には、とっつきにくいやつら、みたいな印象でした。
そんな芥川賞を少し毛嫌いしているような僕が、ふと芥川賞受賞作品を読んでみようと思うきっかけがあって読んでみたところ、「あれ?昔よりも読めるようになった?」という感覚と、「おかしいぞ」嫌いというよりもむしろすごく好きと思えるようになった気がしました。小学生のときあいつ嫌いと思ってたやつが、久しぶりの同窓会であったらなんかよくわからないけど馬が合う、なんだあいついーやつじゃん。と思えるようなそんな親近感が込みあがってきたのです。ちなみにその時に読んだ本が本谷有希子さんの「異類婚姻譚」で、完全に僕のお気に入りの一冊となりました。
そして同じように、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」も読み、とても共感できるような作品であることに気づきました。これは僕が昔より成長したからなのかもしれない。しかしそれと同時に、いやそんなことはない、とも。それは好きだと思える作品が増えた一方で、好きではないと思う作品もそこにあったからでした。(今回はしっかり最後まで読みました。)
本谷有希子さ、村田沙耶香さん、川上未映子さんの本は入ってくる。一方で、又吉直樹さん、中村文則さん、西加奈子さんの本はあんまり……という形で。
それに関しては、都甲幸治さんらの「世界の8大文学賞」のなかでこのような記載がありました。
武田 1980年代の芥川賞って、該当作なしがやたら多いでしょ。(中略)芥川賞が時代についていけなくなった時期なのかなと思います。
都甲 ここで受賞作の傾向に断裂があるんですね。(中略)90年代以降の受賞者の幹事は違いますよね。ここらへんで賞がアップデートされたんだ。
芥川賞はこれでこうでこうでなければならん、といった時代から、90年代以降、バブルが崩壊して社会基盤や都市生活構想が大きく変動した時代以降、社会の変化に合わせた形で芥川賞が変容してきた、という感じでしょうかね。たぶん昔僕が読んだ本は、時代と本と切り離された感覚が強かったんだと思います。
世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今 (立東舎)
- 作者: 都甲幸治,中村和恵,宮下遼,武田将明,瀧井朝世,石井千湖,江南亜美子,藤野可織,桑田光平,藤井光,谷崎由依,阿部賢一,阿部公彦,倉本さおり,しきみ
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さてさて、その「世界の8代文学賞」でもとりあげられていたのが、「九年前の祈り」です。
さなえは、フレデリックの蒸発のあと、生まれ育った片田舎に息子の希敏(けびん)とともに帰京し、久々の実家暮らし、というところから物語が始まります。希敏はおそらく2歳前後であるにもかかわらず「引きちぎられたミミズ」のような動きでしか自分を表現できない「問題」を抱えており、それも一つの引き金となって、さなえと希敏を残してフレデリックは消えてしまったのでしょう。
国際結婚、シングルマザー、Uターンとなんとなく今の世相が反映されていて、僕としてより一層物語を想像しやすく、没入できる設定になっているように感じました。
あるとき、九年前にモントリオール旅行に一緒に行ったみっちゃん姉の息子が病気であることを知り、希敏を連れてお見舞いに行くことに。
それから希敏や自分のことで悩み葛藤するさなえは、ふとあるごとにみっちゃん姉との旅の記憶を思いかえすようになる。
船からさなえと希敏が下りるとき、手をつなぎ忘れて希敏が海に落ちそうになり、間一髪その手をつかんだ時、モントリオールで迷子にならないようにみんなで手をつないだこと、ふとした時に手を放し旅の仲間がはぐれてしまったこと、仲間を探してもらっている間に見つけた教会で祈りをささげたときみっちゃん姉がとても長い時間祈りをささげていたことを思い出す。
かたや日本の片田舎、かたやカナダのモントリオール。
かたやまだ20代の独り身の私、かたや30代のシングルマザーの私。
あの時のみっちゃん姉の祈りが時間と空間を越えて重なる感覚、あの九年前の祈りが今のさなえに向けられているような感覚、そしてさなえの悩みや葛藤から少し解放され前を向いていけるような感覚。
自分の悩みや葛藤に、最終的な折り合いをつけたり解決したりすることは、もちろん自分にしかできないのだけれども、でも一方で決して一人だけで生きようとしないで、厳しいこともいうけれどあなたの幸せも祈っていますよ。「地元」にはすぐ話やうわさが広がったりと屋なところもたくさんあるけれど、個人間の関係が希薄になってきている今の社会のなかでも、目に見えないうっすらとしたつながりで少しやすらげる、「地元」ってそんなところなんじゃないかな。
幸せな話ではないけれど、連続する日々の生活の中で、ほのかに何かと誰かとつながる感覚みたいなものに、ほんの少しだけ救済されたような気持ちになれるんじゃないかな、と思わせるような作品でした。
うまくまとまりませんでしたが、終わりです。
他の連作短編もあわせて、とても良い作品でした。
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竹本健治「涙香迷宮」(講談社)を読みました。
こんにちは。
クリスマスも終わりましたね。
今回は、竹本健治著「涙香迷宮」を読みました。
(以下、Amazonの内容紹介より引用)
明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのは、IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久! これぞ暗号ミステリの最高峰! いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作るという、日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」四十八首が挑戦状。そこに仕掛けられた空前絶後の大暗号を解読するとき、天才しかなし得ない「日本語」の奇蹟が現れる。日本語の豊かさと深さをあらためて知る「言葉のミステリー」です。「このミステリーがすごい!2017」第1位!
今まで竹本健治作品は「匣の中の失楽」しか読んだことがなかったので、探偵役の牧場智久が今までどんな事件を解き明かしてきたのかは知りませんが、単独でも楽しめる作品と踏んで、そしてこのミステリーがすごい!2017年版の国内編第1位を獲得したにもかかわらず読んでいないとは!!という責務の念から読んでみることにしました。
竹本健治氏といえば、本編への伏線等関係なく、これでもかこれでもかと知識を詰め込むので、小栗虫太郎の「国死館殺人事件」に近しい書かれ方をしているなぁ、という印象です。(いわゆる日本四大奇書の作家としての共通点もあったりして)
以下、ネタバレになる部分も含むかもしれないですが、読み終わった感想としては、「なぜこれがこのミス1位に……?」というような印象でした。
選考委員の感想の文面においても「いろは歌を約五十もひねり出した労をねぎらいたい」などと描かれており、しまいには「ミステリーとしては全く評価できない」(しかしそれを踏まえてもエンターテイメント性がすごい、と続く前段としての感想ではあるが)とかかれており、このミステリーがすごい!なのに、ミステリは評価できないの?え、功労賞としての1位なの??という疑問が生じる結果となってしまいました。
いろは歌の大量生産はとてつもない労力をかけた代物である、ということはもちろん承知なのですが、いわば「ミステリ大賞」なのにミステリ部分が結構粗野で、暗号部分と殺人事件にほとんど関連性がなかったり、殺人事件の解決が現行犯で捕縛→自供で終わってしまったり、動機も瑣末なことであったり、落石のアリバイとかの話が一切語られなかったり。竹本健治氏が、というよりは選評者が、という感じがしますね。
黒岩涙香や連珠についてのドキュメンテーションの部分は、フィクションとの線引きは難しいものの読み物としてむしろ面白かったですし、竹本健治氏が調べれば調べるほどこの人はこんなに面白いのか!と皆さんにぜひ知ってほしいと書かれているようでした。
そして、最後の逆文いろはも、もう一段階あるかと思ったら、あ、それで終わりなの?という感じで少し拍子抜けでした。(まだ先があるんじゃないか、なんて疑ってしまいます。)
「ウミガメのスープ」といえば水平思考(シチュエーションゲーム)の定番中の定番でありもちろん結末も知っていました。(水平思考といえば、松岡圭祐氏の「特等添乗員αの難事件」などにも描かれています。)
特等添乗員αの難事件 I<「特等添乗員α」シリーズ> (角川文庫)
- 作者: 松岡圭祐
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: Kindle版
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ですが、この本の結びとなる竹本氏オリジナルの水平思考ゲーム「涙香の匕首」については、考えてみましたがなかなか納得のいく結論は見つかりませんでした。
あいくち、あいくち……、開いた口がふさがらないってか!などと思ったり、首に突きつけることで、「首をきる」から、あなたは首だ(=退職をすっぱり認めてあげよう)
、「あいくち」だからあなたの「口に合う」(=自分が正しいと思う道をいきなさい)
懐にはいる短刀なので、お前は俺の懐刀だった(=腹心の部下だとおもっていたよ)なんて考えたりしたんですが、その考え方って完全に垂直志向だよなぁ……とさまよってしまっています。いろは歌いろは歌と考えていたら、餞別のことは「むまのはなむけ(馬の鼻向け)」なんていったなぁ、などと思い出したりもしましたが。
個人的には、幸徳秋水は黒岩涙香から柄の部分に幸徳の名前が彫られた匕首をプレゼントされた。という説を推しておくことにします。
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読んだ本の管理には「読書管理ビブリア」を使っています。
ジョエル・ディケール「ハリー・クバート事件」(創元推理文庫)を読みました。
こんにちは。
試験が終わり、本を読む時間がゆっくりとれるようになりました。
今回読んだのは、ジョエル・ディケール著「ハリー・クバート事件」(創元推理文庫)。
(以下Amazon「内容紹介」より引用)
デビュー作が大ヒットして一躍ベストセラー作家となった新人マーカスは第二作の執筆に行き詰まっていた。そんな時、頼りにしていた大学の恩師で国民的作家のハリー・クバートが、少女殺害事件の容疑者となる。33年前に失踪した美少女ノラの白骨死体が彼の家の庭から発見されたのだ! マーカスは、師の無実を証明すべく事件について調べ始める。全ヨーロッパで200万部のメガセラーとなったスイス人作家ディケールのミステリ登場。
40か国以上で翻訳がなされており、日本でもこのミステリーがすごい!2015年版の海外編第6位となっている。(ジョエル・ディケールはミステリ作家ではないようである)ちなみにその年の海外編第1位はピエール・ルメートル著「その女アレックス」で、両者ともフランス語作家であり、橘明美氏が翻訳している。
「ハリー・クバート事件」は小説家が小説に隠された真実を追究する小説を書くという小説、という入れ子のような構造になっているが、構造の複雑さを感じさせないほど読みやすい。
もちろん本格ミステリー小説であり、平易な文章は著者と訳者の努力の賜物なのだと思っている。事実、フランスの有名な文学賞であるアカデミー・フランセーズ賞を受賞している一方で、フランスの高校生が選ぶ高校生のゴンクール賞も受賞していることからも、本格的であり、かつ読みやすい作品であることが伺える。
今回僕が読んだ文庫本の帯には「全世界のミステリファンを睡眠不足にした傑作」と書かれていたが、まさにその通りだった。
もちろん、上下巻で合わせて1,000ページ、そう簡単に一気読みできるものではないし、僕はすぐ眠くなるほうだ。読み始めたのは午後11時頃。海外と日本で評価が二分しているファイナルファンタジー15のプレイを中断してから読み始めたせいもあって、僕もまた例外なくページのめくる音で朝を迎える。読み終えたのは明け方の4時ごろのこと。僕にとっては、古川日出夫著「アラビアの夜の種族」以来の一気読みであった。
こんなに引っ掻き回されるものか! というぐらいのどんでん返しにつぐどんでん返し、途中で拡げに拡げた伏線をことごとく回収していく怒涛の展開に脱帽。各章のタイトルNo.のカウントダウン(小説作法31条)もまた内容とリンクし、クライマックスへの疾走感に拍車をかけている。
そしてこの小説の中に登場する小説「悪の起源」は恋愛小説。ミステリ小説を通じて、恋愛小説の一部を覗くことができるのも面白い。
もうまもなく正月休みの人も多いでしょう。”寝る間も惜しんで”読んでみては、いかがでしょうか。
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