「ブルーローズは眠らない」が面白すぎて僕も眠れなかった。(市川憂人「ブルーローズは眠らない」(東京創元社))
お久しぶりです、こんばんは。
9月の怒涛の東京出張を終え、ようやく札幌で一息。思えば、今月は羊蹄山の登山から始まって、登山⇒札幌⇒東京⇒札幌⇒登山⇒東京⇒札幌⇒ライブ⇒東京⇒札幌(⇒ライブ×2の予定)とインドア派の僕にしてはなかなかハードなスケジュール。
ちなみに、この間のライブはビッケブランカの、そして今週末はCzecho no RepublicとLOVE PHYCHEDELICOのライブに行ってきます。
仕事は忙しくないはずなのにあわただしい。しかしそんな中でも読みたい本は絶対読む、というポリシー。今回は、待ちに待った市川憂人さんの「ブルーローズは眠らない」(東京創元社)を読みました。
(以下Amazon「内容紹介」より引用)
両親の虐待に耐えかね逃亡した少年エリックは、遺伝子研究を行うテニエル博士の一家に保護される。彼は助手として暮らし始めるが、屋敷内に潜む「実験体七十二号」の不気味な影に怯えていた。一方、〈ジェリーフィッシュ〉事件後、閑職に回されたマリアと漣は、不可能と言われた青いバラを同時期に作出した、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査してほしいという依頼を受ける。ところが両者との面談の後、施錠された温室内で切断された首が発見される。扉には血文字が書かれ、バラの蔓が壁と窓を覆った堅固な密室状態の温室には、縛られた生存者が残されていた。各種年末ミステリベストにランクインした、『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第2弾!
市川さんは、「ジェリーフィッシュは凍らない」が鮎川哲也賞を受賞してデビューという輝かしい経歴。僕も2016年に読んだ中でもおすすめの本として以前に書かせていただいていますが、最近では珍しく寝食を惜しんで読みたくなる本でした。
今年は、「新本格ミステリ」30周年の年ですが、市川さんの作品は第一作が21世紀の「そして誰もいなくなった」と言われたように、本格ミステリに属するものだと思います。そろそろ「新・新本格ミステリ」と謳ってもよいのでは、なんて思ってしまいます。青崎有吾さんと一緒に。
さて、まだかまだかと発売を期待していた2作目「ブルーローズは眠らない」、発売と同時に紙面での即購入です。
今回の事件は、前作ジェリーフィッシュ事件の後。遺伝子操作により青いバラの開発した博士が温室内で殺される、しかも状況は密室。この条件だけでわくわくしてしまいます。その密室殺人の謎を解くべく、マリアと漣が再び捜査に動き出す。しかし、捜査むなしく第2の殺人が。
博士は誰に殺されたのか?
密室の謎は?
そして、青いバラの発表はなぜ同時に2つも現れたのか?
今回もまた寝食を忘れるほどの一気読みでした。完全に夜更かし。
前作はプロローグの後「地上」パートと「ジェリーフィッシュ」パートが交互に語られ、間に意味深長な短い「インタールード」を挟む書き方で、読む側として非常に読み進めたくさせられていましたが、今回も。
「ブルーローズ」パートと「プロトタイプ」パートが交互に描かれ、間に「インタールード」。真実へと着々と迫っていっているような、現在と過去が錯綜するような、疾走感あるサスペンスのような、そんな感じがします。頭の中で、海外の2時間ドラマが流れるように想像されます。
そして装丁も美しい。
前作のイメージを踏襲していて、並べると本棚の見栄えもよいです。笑
いや、しかし表紙の絵が我々のミスリードへと一役買っているような…。
THE BLUE ROSE NEVER SLEEPS
THE JERRY FISH NEVER FREEZES
なんて並べてみたら、どこかの歌詞みたいな。
本文にも装丁にも通じる、この理路整然としている感じ。
これが市川ミステリなのかな、と思いました。
前作を読んだ方は是非今作も。
前作を読んでいない方は前作も含めて今作も。
買ってみてはいかがでしょうか。
【読書記録】2017年8月の読書数は27冊でした。
さようなら8月、こんにちは9月。
そしてさようなら夏、いらっしゃいませ北海道の秋、という感じです。
夏は野外フェスに行ったり山に登ったりとアクティブだったので、夏が名残惜しいですが、ここは読書の秋、教養の秋とポジティブにとらえることにします。
さてさて、今月の読書記録はこんな感じです。27冊!
平野啓一郎さんの「日蝕」、西加奈子さんの「サラバ!」、池澤夏樹さんの「スティル・ライフ」、佐藤正午さんの「Y」と、純文学よりの小説たち(「サラバ!」は直木賞ですが、僕の中ではエンターテインメントよりは純文学の箱に入れたほうが個人的にすっきりします)から始まって、
後半はサラ・ウォーターズの「半身」や相沢沙呼さんの「マツリカシリーズ」、そしてアガサ・クリスティとミステリ尽くしで終わりました。
平野啓一郎さんの「日蝕」は、1999年の芥川賞受賞作品なのですが、受賞時も賛否両論となった、その特徴ある文体に触れるべきです。フランスの神学者が蒐集の旅をしている中で、錬金術師や両性具有者との邂逅を経て、キリスト教との新たなつながりを模索しているようなストーリーも異色ですが、20世紀前半から中盤にかけて書かれたような古風で形式ばった文体は、まるで実際に中世ヨーロッパに書かれた書物をその時代の学者が翻訳したように感じられ、挑戦的な作品だったと伺えます。
個人的に、西加奈子さんと又吉直樹さんと中村文則さんの小説は、読んでもハマらないと感じていました。もちろん、作品を読んだうえでそう思っています。
西加奈子さんの小説の帯には「中村文則さん、又吉直樹さん推薦!」
中村文則さんの小説の帯には「西加奈子さん、又吉直樹さん推薦!」
そして又吉直樹さんの小説の帯には「西加奈子さん、中村文則さん推薦!」
そう書かれているような気がして、僕の中ではなんだか好きになれない純文学トライアングルの一角にいました。(「舞台」はとっても面白かったですが。)
その気持ちで、「サラバ!」を読んでみていたのですが、その考えは大きく間違っていたことに気づかされました。
「サラバ!」は傑作です。間違いなく傑作だと思いました。
なんで、もっと早く読んでいなかったのか、悔やまれる恥ずかしい、そんな作品。
サラバ!の上巻の半分ぐらいまでは、淡々とイランやエジプト、日本での生活が淡々と語られており、なんだかちょっと読んでいて退屈でした。しかしあの上巻半分の記載はいわばダムのようなものでした。上巻の後半から、感情の放流が始まりました。自分の感情や他人の言動などに振り回されて振り回される主人公の放流たるや、とうとうと滔々と、僕の目に、耳に、五感に大量の水が流れ込んでくるような感覚に陥りました。西加奈子におぼれてしまった。
相沢沙呼さんの「マツリカシリーズ」の最新作「マツリカ・マトリョシカ」、せっかくなので、最初から読むことに。
主人公の柴犬(通称)がマツリカさんに振り回されながら謎を解決していく。そして謎を解決しながら成長していく、ジュブナイル日常の謎的なシリーズ。
ジュブナイル小説らしい、スピード感あるストーリー展開ながらにして、秀逸なプロットは、読んでいてとても楽しくなります。
読み終わった瞬間に、もう次の作品が読みたくなる、中毒性MAXな小説です。
マツリカ・マトリョシカ 「マツリカ」シリーズ (角川書店単行本)
- 作者: 相沢沙呼
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/08/25
- メディア: Kindle版
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あと、変わったところでいうと、穂村弘さんの「短歌の友人」でしょうか。
先日、本屋さんを歩き回っているときに、ふいに短歌の棚に目が行きまして、「そういえば、詩は読んだことあるけど、短歌って読んだことないなぁ」と思ったのです。しかし、短歌を読もうとおもっても、何を手に取ったらいいかわかりません。正直俵万智さんの「~~サラダ記念日」しか知りません。なので、歌集を買うのはハードルが、というかリスクが高い、そんな気がしました。
いろいろ、検索してみると、短歌の評論でこの「短歌の友人」がおすすめされていたので、購入してみました。
読んでみると、短歌の評論というよりは、もう詰め込みに詰め込んだ短編小説のおもちゃ箱みたいで、短歌たるやを全く知らない僕でも、面白いなぁと思いながら、リラックスした気持ちで読むことができました。
と今回は、こんなところです。
9月は出張が多く飛行機であっちへこっちへ行ったり来たりなので、Kindleでの読書がメインになりそうです。
ではでは。
僕が個人的に好きな漫画10作品を紹介します。
こんにちは。
8月も3分の1が過ぎようとしていて、もうお盆休みに入っている人もいるのでしょうか。おととい、8月7日は北海道では七夕の日でした。
いつも、小説ばかり読んでいる僕ですが、漫画もそれなりに読んでいます。特にiPadをかってからはKindleでまとめ買いする機会も増えました。
昔はいわゆる少年ものの王道バトル漫画として、ワンピースやNARUTO、ブリーチなど読んでいたのですが、最近は王道からは外れた漫画(と言っては失礼ですが)をよく読みます。
せっかくなので、僕の個人的に好きな漫画10作品を紹介したいと思います。
- 1.イエスタデイをうたって(冬目景/集英社)
- 2.アルテ(大久保圭/コミックゼノン)
- 3.ベイビーステップ(勝木光/講談社)
- 4.スパイラル~推理の絆~(城平京・水野英多/スクウェア・エニックス)
- 5.星野、目をつぶって。(永椎晃平/講談社)
- 6.恋は雨上がりのように(眉月じゅん/小学館)
- 7.よつばと!(あずまきよひと/メディアワークス)
- 8.ドメスティックな彼女(流石景/講談社)
- 9.惑星のさみだれ(水上悟志/少年画報社)
- 10.メイドインアビス(つくしあきひと/竹書房)
- その他紹介できなかった、おすすめ漫画
1.イエスタデイをうたって(冬目景/集英社)
イエスタデイをうたって 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 冬目景
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/07/18
- メディア: Kindle版
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コンビニバイトで何となく毎日を過ごしているリクオのもとにカラスを連れた少女、ハルが現れる。一方、リクオは大学時代からの友人、榀子のことが忘れられない。
と、あらすじが2行でかけてしまう、この漫画。
僕は何を隠そう冬目景さんのこの漫画が大好きなわけです。くくってしまえば、青年向けの恋愛コミックなんですが、いわゆる恋愛漫画みたく、恋愛恋愛していなくて、主人公たちに際立ったキャラクターはないのだけど、どこか情緒的な、文学的な感じがするのです。そしてハルがかわいい。その情緒さを際立たせるのが作品のタッチ。作者が美大出身であったこともあり、輪郭や髪型などの手書き感が、いつか懐かしい夏の思い出…のようなノスタルジアを味わせてくれます。冬目さんの作品画集もとっても素晴らしいです。
余談ですが、冬目さんはこの作品以外にも多く作品を書かれており、「羊のうた」や「幻想博覧会」「ハツカネズミの時間」などどれも面白いですが、個人的に好きなのは「マホロミ 時空建築幻視譚」です。取壊し寸前の建物の取っ手に触れると建物の記憶が少しだけ見える建築学生の物語。全四巻。
また、現在月間バーズにて「空色ノイズの姫君」を連載中。こちらもおすすめです。
2.アルテ(大久保圭/コミックゼノン)
中世ヨーロッパのフィレンツェやヴェネツィアを舞台にした、職業画家を目指す女性の物語。当時は職業画家は男性の仕事で、女性、特に貴族の女性は家系の繁栄のために、多額の結納金をもって名家へ嫁がせるものであったとされる時代のなかで、貴族として、女性として、の生き方と戦い自立しようとする主人公アルテ。物乞いや高級娼婦など様々な人との出会いの中で、職業画家として、元貴族として、そして女性として成長していく姿にとても引き込まれます。そして表情豊かなアルテがかわいい。
3.ベイビーステップ(勝木光/講談社)
勤勉・真面目でオールエーだから、あだ名がエーちゃん。そんなエーちゃんが、運動不足の解消のためにテニスの体験レッスンに行き、テニスの世界にはまっていく、スポーツ漫画。テニス漫画といえばこの漫画、ぐらい有名なテニスの王子様の「ありえない」設定とは真逆で、様々なテニス理論や実際のトレーニング・アプローチなどに基づいたリアルなテニス漫画で、テニス経験者としてはなるほどと思いながら読んでしまう。そしてナッちゃんがかわいい。
4.スパイラル~推理の絆~(城平京・水野英多/スクウェア・エニックス)
スパイラル ?推理の絆? 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
- 作者: 城平京,水野英多
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2012/09/21
- メディア: Kindle版
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天才の弟、鳴海歩(なるみあゆむ)の類稀なる洞察力と理論に基づいた構築力によって、難事件を解決しながら兄の行方を捜していく物語。
ガンガン・コミックスも「魔法陣グルグル」や「まもって守護月天!」、「ハレのちグウ」など結構読んでいた気がします。僕の全盛期はこの「スパイラル~推理の絆~」や「東京アンダーグラウンド」「鋼の錬金術師」だったんですが、中でもこの作品は夢中で読んでいました。
単発の事件解決の推理漫画が、いつのまにか途中からお兄さんとの確執と真実を見つける物語と変わっていったという点の評価は分かれるところですが、細かい伏線や高度な心理戦は最後まで読んでてぞくぞくさせられました。あとひよのさんかわいい。
東京アンダーグラウンド、読みなおしたくなってきました。
あ、あと城平京さんの小説「名探偵に薔薇を」もオススメです。
5.星野、目をつぶって。(永椎晃平/講談社)
人との関わりを避けながら高校生活を送る主人公、小早川が人気者のギャルである星野美咲に振り回される、結構王道な青春恋愛漫画。
顔もかわいく人気者の星野が唯一隠していることが、すっぴん。すっぴんの顔が地味すぎて人気者の輪を何とか保とうとしているが、川でおぼれていた子猫を助けたために、小早川にすっぴんがばれてしまう。そして化粧がへたくそな星野のかわりに、美術部の小早川が星野のメイク担当として、学校生活に巻き込まれていく。
でも、星野の行動力に感化されつつも、「いやいや、人間っていうのはそうそうすぐには変わんねーんだよ」みたいな主人公の鬱屈した感情が、王道の展開から少しはずれて進んでいくところが、たまらないです。あとすっぴん星野がかわいい。
6.恋は雨上がりのように(眉月じゅん/小学館)
ファミレスでバイトしている女子高生橘あきらとそのファミレスの店長の恋愛物語。
ただし、好意の方向は、あきら⇒店長で、店長もその好意をありがたいと思いながらも、自分の年齢や世間体、あきらの将来を考えて、優しく突き放す。一歩間違えば、おじさんの妄想漫画になりかねないテーマを、読んでいて気持ち悪くならない、そして面白い絶妙なバランス感で進んでくストーリーがなんともいえないです。
「たちばなあきら」と聞くと、「橘玲」さんをおもいだしてしまうのが悲しいところ。(笑)
7.よつばと!(あずまきよひと/メディアワークス)
よつばちゃんという5さいのおんなのこが、きんじょのひとたちとほんぽうにふれあっていくものがたりです!きみはよつばとなフレンズなんだね!っていうかんじです。きんどるばんはないよ。
作者は違うけど、何となく雰囲気の似ている石黒正数さんの「それでも町は廻っている」も併せておすすめです。
8.ドメスティックな彼女(流石景/講談社)
ひょんな事から童貞を卒業した主人公ナツオは、父の再婚によって、片思いしている学校の先生と童貞を卒業した相手(2人は姉妹)と同居することに。という主人公ハーレム系の物語。少年誌でここまでやっちゃっていいの?ってぐらいエロくて、近親相姦のセックスシーンも多く出てくる、いろいろギリギリな漫画。なんだけど、読み始めたら面白いです。
9.惑星のさみだれ(水上悟志/少年画報社)
これも昔に読んでとてもはまっていた漫画。また読もうかな。
大枠は普通の人がある日力を得てしまい敵と戦うバトル漫画なのですが、世界を救うために力を得たヒロインが、何よりも世界を壊したがっている、というところが面白いです。
10巻完結というコンパクトさの中にこれでもかと面白さや名言を詰め込んでおり、是非一読すべき漫画です。
10.メイドインアビス(つくしあきひと/竹書房)
アビスというどこまで続くかわからない謎の縦穴を探索する探窟家の物語。主人公のリコも探窟家にあこがれをもち、誰も到達したことのない縦穴の底を目指します。絵柄からかなりかわいい感じがするのですが、内容はそろそろグロく、死んだり死にかけたり。webコミックながら、単行本でも読みたくなる面白さです。
その他紹介できなかった、おすすめ漫画
ほかにも紹介したい漫画があったのですが、10作品に絞ってしまったため紹介できなかった作品たち、備忘録として記載しておきます。
・羽海野チカ「ハチミツとクローバー」/「3月のライオン」
・桂正和「I's」
・仲村佳樹「スキップビート」
・渡辺静「CHIMES」
ではでは。
【読書記録】2017年7月の読書数は16冊でした。
連投です。
2017年の読書記録。
今月は、仕事がとっても忙しい時期があったり、毎夜飲み会のある出張が続いたり、となかなか読書時間が確保できませんでした。
悲しい。
というわけで2017年7月の読書数は16冊。
先月までのペースからすると50%ぐらいですね。
でも、200冊超えたから読む気がなくなって失速したわけではありません。
内訳は以下の通り。
読んだ冊数は少ないものの、バラエティ豊かに、面白い作品をたくさん読むことができた月でもあります。
過去記事で紹介した逸木裕さんの「少女は夜を綴らない」や
辻堂ゆめさんの「悪女の品格」だけではなく、
今年没後30年の澁澤龍彦さんの遺作で、天竺へ向かう途中の高岡親王の幻想奇譚を綴った連作短編集「高岡親王航海記」や
(梨木果歩さんの家守奇譚も似たような印象を受けます。)
文章の耽美さが素晴らしいと評される、自身の無意識的直観である第六感を超える第七官(感)のように、自己と他者の思考や意識が無意識的につながっているような恋愛感覚をさまよう一方的で双方向的な少し変わった恋愛?小説である尾崎翠さんの「第七官界彷徨」 、
勉強とは何か、について哲学的に考え、勉強は必ずしもしなければならないものではく(無意識的なものも含めて)自発的に行うものであって、そして勉強するものたるものキモくあれ、とその「勉強する」ことの考え方や落としどころなどを抽象的にまとめ上げた、千葉雅也さんの「勉強の哲学」、
そして、ネガティブになりがちな現代において、人間のポジティブな面に焦点を当てて、精神的にまっすぐな信念を掲げる人たちの人間情緒を書き上げた、武者小路実篤さんの「真理先生」などたくさんの、「何度も読み返したくなる作品」に出会えた月だったかなと思います。
8月は、引き続き北海道も暑い季節なので、外へ飛び出すことも多くなりそうですが、
仕事も一段落し時間もあることなので、もっとたくさん本が読めたらいいなと思っています。
長い歴史小説にもチャレンジできたらいいですね。
では、この辺で。
悪女になり切れない悪女へ。東京創元社から待望の新刊、辻堂ゆめ「悪女の品格」を読みました。
8月になりました。
最近はもっぱら登山に行ったり、ドラクエXIの攻略にいそしんでいます。
今回読んだのは、辻堂ゆめさんの「悪女の品格」(ミステリ・フロンティア)です。
なんとサイン本。
サイン本がネットで買えるとは便利な世の中です。(いいのかは別として笑)
(以下Amazon 内容紹介より引用)
「普通になんて生きられない。金がないと」光岡めぐみは三人の恋人を器用に転がし貢がせ、贅沢な生活を送っている。ところがこの一週間、監禁や薬品混入事件など何者かに次々と狙われるようになり、そして彼女自身の過去の罪を告発する手紙が届く――。めぐみはパーティーで知り合った大学准教授と共に犯人を捜すが……。わたしを狙うのは、誰? 東大在学中にデビューを果たした今注目の新鋭が放つ、渾身の長編ミステリ!
辻堂さんは、「いなくなった私へ」でこのミステリーがすごい!大賞で優秀賞を受賞後、「コーイチは、高く飛んだ」や「あなたのいない記憶」など、宝島社から作品を出しています。そんな辻堂さんの待望の新刊は、なんとミステリ・フロンティアから。うれしい。
ミステリ・フロンティアは、僕の大好きな東京創元社から出しているフランス装版のレーベルです。馴染み多いのは、創元推理文庫や創元SF文庫ですが、ミステリ・フロンティアで発刊された作品の多くは、創元推理文庫で文庫化されます。有名どころで言えば、伊坂幸太郎さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」や海藤尊さんの「夢見る黄金地球儀」、米澤穂信さんの「さよなら妖精」など。最近では、深緑野分さんの「オーブランの少女」などでしょうか。
そんな、僕が推している新進気鋭の作家が、僕のもっとも好きな出版社から出す最新刊「悪女の品格」、楽しみじゃないわけがありません。
「悪女の品格」は、大女優の娘で、かつてはいじめっ子、今では三股をかけ金持ちの男を手玉にとる悪女、めぐみがマンション近くの物置で目を覚ますところから物語が始まります。物置に閉じ込められてしまっためぐみは、その後も塩酸をかけられたり、脅迫文が送られたりと散々な目に合います。
しかし、めぐみはめげない女。婚活パーティーで出会った優良物件の准教授とともに、過去の清算をしつつ、物語は進んでいきます。脅迫の内容が意味するところとは。犯人はいったい誰か。そして犯行の動機は。
悪いのに、本当にいいところはあまりないのに憎めないめぐみと、正体不明のイケメン准教授の息の詰まった、息の合った掛け合いも含めて、一気読みしてしまう楽しさが散りばめられた作品でした。
今回も最後に少し心温かくなる結末でした。(で、いいんですよね?笑)
「悪女の品格」というタイトル。
悪女、と聞くとどうしても思い出してしまうのが中島みゆきさんの名曲「悪女」。
マリコの部屋へ~♪、と出だしが印象に残る、悪女を演じ切れないいい女の曲ですね。
サビはこんな感じ。
悪女になるなら 月夜はおよしよ 素直になりすぎる
隠しておいた 言葉がほろり こぼれてしまう 「行かないで」
悪女になるなら 裸足で夜明けの 電車で泣いてから
涙ぽろぽろ ぽろぽろ 流れて涸れてから
最初、「悪女の品格」と聞いたとき、この中島みゆきさんの「悪女」の歌詞を思い浮かべながら、悪女になり切れないいい女の話かなと思っていましたが、めぐみは藤沢において行かれても、飛び入り参加した婚活パーティーで出会った男とともに、しっかりパンプス(笑)を履いて、夜が明ける前に車で「いい男ゲット!」と思いながら帰る女ですからこの悪女よりは悪女なのでしょう。
しかし、准教授には「どうも君は悪女の品格が備わっていない。まったくないとは言わないけど、ずいぶんと中途半端だ」なんて言われてしまっている点からすれば、悪女になり切れないいい女、という解釈もあながち間違っていないのかな、と思います。
彼女なりのバックグラウンドがあって、悪い女を演じている、少しは魔性さが備わっているのかもしれませんが、悪女を演じることに自棄になっているような寂しい女性のように僕にはうつりました。
この一連の事件を通じて、いい女のメッキがはがれ、今までの友人はみんないなくなってしまったけれども、同時に悪女のメッキもはがれ、新しく生きてみようと前向きに決心できた彼女の品格は、きっといい女へと向かうのだと信じています。
私がいなくなって、あなたがいなくなって、今度はみんながいなくなった、辻堂作品、何もかもがなくなる日は近いのかもしれません。
なんて。
締め方が雑ですが、今回はこの辺で。